・・・そうしてこの頂角を二等分する線の方向がほぼ発火当時の風向に近いのである。これはなんという不幸な運命の悪戯であろう。詳しく言えば、この日この火元から発した火によって必然焼かれうべき扇形の上にあたかも切ってはめたかのように函館全市が横たわってい・・・ 寺田寅彦 「函館の大火について」
・・・涙でくしゃくしゃになった目で両親の顔を等分にながめながら飲んでいる。飲んでしまうとまた思い出したように泣き出す。まだ目がさめきらぬと見える。妻は俊坊をおぶって縁側に立つ。「芭蕉の花、坊や芭蕉の花が咲きましたよ、それ、大き・・・ 寺田寅彦 「花物語」
・・・や「角の三等分」の問題とはおのずからちがった範疇に属するものであることは明らかであると思われる。 こういう種類の問題の一例は、おなじみのリヒテンベルクの放電像のそれである。この人が今から百何十年前にこの像を得た時にはたぶん当時の学者の目・・・ 寺田寅彦 「量的と質的と統計的と」
・・・のステーションへ著いたばかりであったが、旅行先から急電によって、兄の見舞いに来たので、ほんの一二枚の著替えしかもっていなかったところから、病気が長引くとみて、必要なものだけひと鞄東京の宅から送らせて、当分この町に滞在するつもりであったが、嫂・・・ 徳田秋声 「挿話」
・・・由なからしむるほどの遠見と憂国の誠もなく、事後に局面を急転せしむる機智親切もなく、いわば自身で仕立てた不孝の子二十四名を荒れ出すが最後得たりや応と引括って、二進の一十、二進の一十、二進の一十で綺麗に二等分して――もし二十五人であったら十二人・・・ 徳冨蘆花 「謀叛論(草稿)」
・・・ 生田さんは新聞紙が僕を筆誅する事日を追うに従っていよいよ急なるを見、カッフェーに出入することは当分見合すがよかろうと注意をしてくれた。僕は生田さんの深切を謝しながら之に答えて、「新聞で攻撃をされたからカッフェーへは行かないという事・・・ 永井荷風 「申訳」
・・・余は夏蜜柑を食いながら、目分量で一間幅の道路を中央から等分して、その等分した線の上を、綱渡りをする気分で、不偏不党に練って行った。穴から手を出して制服の尻でも捕まえられては容易ならんと思ったからである。子規は笑っていた。膝掛をとられて顫えて・・・ 夏目漱石 「京に着ける夕」
・・・かない、いやしくも文明の教育を受けたる紳士が婦人に対する尊敬を失しては生涯の不面目だし、かつやこれでもかこれでもかと余が咽喉を扼しつつある二寸五分のハイカラの手前もある事だから、ことさらに平気と愉快を等分に加味した顔をして「それは面白いでし・・・ 夏目漱石 「自転車日記」
・・・そうして今急にあすこに欠員ができて困ってるというから、当分の約束で行くのです、じきまた帰ってきますと、あたかも未来が自分のかってになるようなものの言い方をした。自分はその場で重吉の「また帰ってきます」を「帰ってくるつもりです」に訂正してやり・・・ 夏目漱石 「手紙」
・・・「これで、当分は枕を高くして寝られる」と地主たちが安心しかけた処であった。 枕を高くした本田富次郎氏は、樫の木の閂でいきなり脳天をガンとやられた。 青年団や、消防組が、山を遠巻きにして、犯人を狩り出していた。が、青年団や消防組員・・・ 葉山嘉樹 「乳色の靄」
出典:青空文庫