・・・もう今じゃ来なさらないけれども、善さんなんぞも当分呼ばないことにして、ねえ花魁、よござんすか。ちょいと行ッて来ますからね、よく考えておいて下さいよ。今行くてえのにね、うるさく呼ぶじゃないか。よござんすか、花魁」 お熊は廊下へ出るとそのま・・・ 広津柳浪 「今戸心中」
・・・「ここのモリブデンの鉱脈は当分手をつけないことになったためなそうです。」「そうだないな。やっぱりあいづは風の又三郎だったな。」嘉助が高く叫びました。 宿直室のほうで何かごとごと鳴る音がしました。先生は赤いうちわをもって急いでそっ・・・ 宮沢賢治 「風の又三郎」
・・・「あああ、私も当分ここででも暮そうかしら」「いいことよ、のびのびするわそりゃ」「――部屋貸しをするところあるかしらこの近所に」 ふき子は、びっくりしたように、「あら本気なの、陽ちゃん」といった。「本気になりそうだ・・・ 宮本百合子 「明るい海浜」
・・・ 照子は、彼等を等分に眺め乍ら、我から興に乗った眼差しで語りつづけた。「小幡には遊べないの。土曜日んなるとね私が云うのよ、貴方も疲れてるだろうから、今日は休んで寝てなさいってね。そして、私が社へ出かけて行って、主人に金下さいって云う・・・ 宮本百合子 「斯ういう気持」
・・・ 刑務所の食糧は糖分が不足しているから、ウズラ豆の煮たのは皆がよろこぶ。ウズラ豆の日だと女監守は各房へ配給する前、一人ずつの皿からへつって自分のところへくすねて置き、休憩時間のお茶うけにするのだそうであった。香の物は四切れのところを、三・・・ 宮本百合子 「刻々」
・・・もしまた、適度の砂糖は人間の健康に必要なものであるから、というのならば、つい先頃まで砂糖の害だけを云いたてて、科学的に国民保健上最低の糖分の必要さえ示そうとしなかった政府と栄養専門家、医者たちの軍事的御用根性について、この際正直に反省してほ・・・ 宮本百合子 「砂糖・健忘症」
・・・日本葱一本を等分にわけて、お宅には特別にこっちをあげましょうと白い根の方を貰って来たという話もその朝省線の中できいた。 野菜不足は深刻な昨今の不便だが、そこにはいろいろの原因がたたまっているだろうと思う。関東の大水害で野菜が水の下になっ・・・ 宮本百合子 「主婦意識の転換」
・・・役所の規定は「食物は等分に分配すべし」とだけあって、配られたのが骨ばかりだったにしてもそれはその兵士の不運なのだし、ましてそれを噛む顎を弾丸にやられていたとすれば、それこそその兵の重なる不運と諦めるしかない状態なのであった。病院へのあらゆる・・・ 宮本百合子 「フロレンス・ナイチンゲールの生涯」
・・・皆なに等分に分けて上げます。それも誰も、そうせよと教えるのではないのですが、自分独りが楽しむものではないと思っているからです。 その例は家庭に居っても解ります。お客さまがあってお母さんが忙がしいと、子供さん達はみんな手伝います。女の子だ・・・ 宮本百合子 「わたくしの大好きなアメリカの少女」
・・・兎に角この一山を退治ることは当分御免を蒙りたいと思って、用箪笥の上へ移したのである。 書いたら長くなったが、これは一秒時間の事である。 隣の間では、本能的掃除の音が歇んで、唐紙が開いた。膳が出た。 木村は根芋の這入っている味噌汁・・・ 森鴎外 「あそび」
出典:青空文庫