・・・あの満天星を御覧、と言われて見ると旧い霜葉はもう疾くに落尽して了ったが、茶色を帯びた細く若い枝の一つ一つには既に新生の芽が見られて、そのみずみずしい光沢のある若枝にも、勢いこんで出て来たような新芽にも、冬の焔が流れて来て居た。満天星ばかりで・・・ 島崎藤村 「三人の訪問者」
・・・気の弱い、情に溺れ易い、好紳士に限って、とかく、太くたくましいステッキを振りまわして歩きたがるのと同断である。大隅君は、野蛮な人ではない。厳父は朝鮮の、某大学の教授である。ハイカラな家庭のようである。大隅君は独り息子であるから、ずいぶん可愛・・・ 太宰治 「佳日」
・・・ あの野郎は鼻が低いから、いい文学が出来ぬ、と言うのと同断である。 この頃、つくづくあきれているのであるが、所謂「老大家」たちが、国語の乱脈をなげいているらしい。キザである。いい気なものだ。国語の乱脈は、国の乱脈から始まっているのに・・・ 太宰治 「如是我聞」
・・・ 同断中略。○四月十九日。にを、くだす。○同二十日。あすわ、ふねなり。 こよひわ、なぜこのやうに、ねられぬことかな。わけもない、ことばかり、おもひて、はや、うしのこくにも、なるらん。 まことなき。・・・ 太宰治 「盲人独笑」
出典:青空文庫