・・・何とも無いと云われても、どうも何か有るに違い無い。内の人の身分が好くなり、交際が上って来るにつけ、わたしが足らぬ、つり合い足らぬと他の人達に思われ云われはせぬかという女気の案じがなくも無いので、自分の事かしらんとまたちょっと疑ったが、どうも・・・ 幸田露伴 「鵞鳥」
・・・俺は泥をソッと手づかみにして、何ベンも機会を覗ったが、ウマク行かなかった。俺はどうもそういう事では、ボンくらかも知れない。 或る朝、運動場の端の方にある焼木の柵の割れ目に、松葉の一本々々を丹念に組合せて作られた「K」と「P」を発見した。・・・ 小林多喜二 「独房」
・・・達一度が末代とは阿房陀羅経もまたこれを説けりお噺は山村俊雄と申すふところ育ち団十菊五を島原に見た帰り途飯だけの突合いととある二階へ連れ込まれたがそもそもの端緒一向だね一ツ献じようとさされたる猪口をイエどうも私はと一言を三言に分けて迷惑ゆえの・・・ 斎藤緑雨 「かくれんぼ」
・・・「どうも是という芸は御座いませんが、尺八ならすこしひねくったことも――」と、男は寂しそうに笑い乍ら答えた。「むむ、尺八が吹けるね。それ見給え、そういう芸があるなら売るが可じゃないか。売るべし。売るべし。無くてさえ売ろうという今の世の・・・ 島崎藤村 「朝飯」
・・・直観道学はそれを打ち消して利己以上の発足点を説こうけれども、自分らの知識は、どうも右の事実を否定するに忍びない。かえって否定するものの心事が疑われてならない。(衆生済度傍に千万巻の経典を積んでも、自分の知識は「道徳の底に自己あり」という一言・・・ 島村抱月 「序に代えて人生観上の自然主義を論ず」
・・・折角己に打明けたのに、己がどうもせずに、あいつを突き放して、この場が立ち退かれようか。己が人の家へ立寄りにくかったのは、もしこっちで打明けた時、向うが冷淡な事をしはすまいかと恐れたのではないか。今こいつが己に打明けたのに己が冷淡な事をして好・・・ 著:シュミットボンウィルヘルム 訳:森鴎外 「鴉」
・・・「あなたはこの節は少しはおよろしい方でございますか」と聞く。自分の事は何でもすっかり知っているような口ぶりである。「どうもやっぱり頭がはきはきしません。じつは一年休学することにしたんです」「そうでございますってね。小母さんは毎日・・・ 鈴木三重吉 「千鳥」
・・・兎に角お前さんがそんなことをしたにしても、あの人が構わなかっただけはたしかだわ。どうもそうらしいわ。それだからなんとなくお前さんはわたしに対して不平らしい様子をするのだろうと思うわ。前からそんな心持がしてよ。それはそうと、兎・・・ 著:ストリンドベリアウグスト 訳:森鴎外 「一人舞台」
・・・僕は、このごろまた、ブランドを読み返しているのだが、どうも肩が凝る。むずかしすぎる。」率直に白状してしまった。「僕にやらせて下さい。僕に、」ろくろく考えもせず、すぐに大声あげて名乗り出たのは末弟である。がぶがぶ大コップの果汁を飲んで、や・・・ 太宰治 「愛と美について」
・・・なぜと云うに、あれは伯爵の持物だと云われても、恥ずかしくない、意気な女だからである。どうもそれにしても、ポルジイは余り所嫌わずにそれを連れ歩くようではあるが、それは兎角そうなり易い習だと見れば見られる。しかしドリスを伯爵夫人にするとなると、・・・ 著:ダビットヤーコプ・ユリウス 訳:森鴎外 「世界漫遊」
出典:青空文庫