・・・武者小路、西條八十などスタディアムにいての通信をおくってよこしています。白鳥は夫婦で行っている。藤村は国際文化協会という役所から後援され、ペンクラブの大会へ出かけて居ります。昔、フランスへ茶の実をもって行ったように今度のおみやげも日本の植物・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
・・・ 正宗白鳥が、「ひかげの花」を荷風の芸術境地としてそれなりに認め、「人生の落伍者の生活にもそれ相応の生存の楽しみが微にでもあることを自ら示している」ところの、人間の希望を描いた作品であると評したのは、白鳥の日頃からの人生観のしからしめる・・・ 宮本百合子 「今日の文学の展望」
・・・ 正宗白鳥の「日本脱出」は、一部の批評家によると、日本のニヒリストが、現代ロマネスクのチャンピヨンとしてあらわれた驚異の一つであったようだ。「脱出」という言葉を日本の文学の上に、ふたたびよむとき、わたしたちの心には、ある思いが湧く。・・・ 宮本百合子 「「下じき」の問題」
・・・ 正宗白鳥は自然主義時代からの作家として今日も評論に小説に活動して一種の大御所のような風格をもった存在となっているのであるが「ひかげの花」について菊池寛の見解に反対した意見の中には、その矛盾においてなかなか教えるところがある。 菊池・・・ 宮本百合子 「一九三四年度におけるブルジョア文学の動向」
・・・ この心持、佐藤春夫の見失われた白鳥の話にある。「妙に根本的に考える」私の性癖によるのだ。 ○敏感すぎる夫と妻 妻、ひとりで家に居、女中が留守になったので朝食事の用意を簡単にする為、オートミールでもあればよい・・・ 宮本百合子 「一九二三年冬」
・・・コムソモールカが昔のバレーの白鳥のようにやっぱりああいう風に爪立って、チョチョチョチョと歩いて、キュッと片脚をのばしている。 服装だけのコムソモーレツとコムソモールカとが、超現実的に追いつ追われつ、爪先踊りをやって、メデタシ、メデタシに・・・ 宮本百合子 「ソヴェトの芝居」
・・・ リオンスの作家観をもってすれば、芸術院へ入ることを正宗白鳥氏がことわったことも、藤村氏が辞退したことも、荷風氏が氏の流儀ではねつけたのも、悉くわけのわからないことになるのである。リオンスによれば「一般に作家というものは、だいいち人間が・・・ 宮本百合子 「近頃の話題」
・・・ けれども、祖父の墓のとなりに、墓標だけの新墓があって、墓標の左右に立っている白張提灯がやぶれ、ほそい骨をあらわしながらぽっかり口をあけていた。四角くもり上げた土の上においてある机が傾いて、その上に白い茶わんがころがっている。太い赤い鶏・・・ 宮本百合子 「道灌山」
出典:青空文庫