・・・祖母は、不良少年のようにしてしまった発端における自分の責任は理解出来ないたちの人であったから、やくざになった一彰さんばかりを家名ということで攻めたてた。親族会議だとか廃嫡だとか大騒ぎをした。そして、そのごたごたの間に母の実家は潰れた形になっ・・・ 宮本百合子 「田端の汽車そのほか」
・・・文学の発端も、この人間性の主張にこそはらまれているのである。 平野氏が、小林多喜二の死を英雄的に考えることは、要するに一つの俗見であって、それは日本の民主主義そのもののうちに尾をひいている封建性であるとし、その幻想をはいで見せようと試み・・・ 宮本百合子 「誰のために」
・・・ 人間の男女は、自然のままの表現としてはこんな発端で、愛情の永続を希う意志表示をして来た。そのような未開社会の男女の結合の間で、貞操などという言葉は思いつきもされなかった。同じくらいの好きさなら、同じぐらいいやでないならば、相手の男・・・ 宮本百合子 「貞操について」
・・・と応じながら、熱心に志津の八反の着物や、藤紫の半襟を下から見上げた。「――その着物、さらだね」「おばあさんにゃ、十度目でもさらだから始末がいいわ――ね、本当にどうする? 私これからかえったって仕様がないから、冷たくってよかったら・・・ 宮本百合子 「街」
出典:青空文庫