・・・民衆は現代の諸矛盾を八方からその身に受けて照りかえしつつ日々夜々を生きているのであって、自身の置かれているこの社会での場所を、昨今一部の作家が殆ど一種のエキゾチシズムをも加えて云うかと思われる民衆的なる総称の下に、強ち鼓腹撃壤しているのでも・・・ 宮本百合子 「文学の大衆化論について」
・・・に請願のため行列して行った民衆は、冬宮を背にして並んだ兵士の発砲によって千数百の労働者がたおれた。その前、ゴーリキイはこの労働者に対する射撃を防ごうとして他の同志とともにウイッテと会い、熱心に談判したがきき入れられなかった。ツァーの砲火の下・・・ 宮本百合子 「マクシム・ゴーリキイの人及び芸術」
・・・川を渡ったり、杉の密集している急な崖をよじ登ったりして、父の発砲する音を聞いていたが、氷の張りつめた小川を跳び越すとき、私は足を踏み辷らして、氷の中へ落ち込み、父から襟首を持って引き上げられた。それから二度と父はもう私をつれて行ってはくれな・・・ 横光利一 「洋灯」
出典:青空文庫