・・・で、般若は一挺の斧を提げ、天狗は注連結いたる半弓に矢を取添え、狐は腰に一口の太刀を佩く。 中に荒縄の太いので、笈摺めかいて、灯した角行燈を荷ったのは天狗である。が、これは、勇しき男の獅子舞、媚かしき女の祇園囃子などに斉しく、特に夜に入っ・・・ 泉鏡花 「茸の舞姫」
・・・「十夜の半弓」「善悪ふたつの取物」「人の刃物を出しおくれ」などにも同じような筆法が見られる。 また一方で、彼の探偵物には人間の心理の鋭い洞察によって事件の真相を見抜く例も沢山ある。例えば毒殺の嫌疑を受けた十六人の女中が一室に監禁され、明・・・ 寺田寅彦 「西鶴と科学」
・・・また半ば満たした金だらいの中央にコップの水を注入する時に水面に菊花状の隆起を生じる事がある。これもまた渦動の一問題であるらしい。また半球形の湯飲み茶わんに突然水を放射すると水は器壁に沿うて走り上り、縁から外に傘状に広がる、そうしていつまでた・・・ 寺田寅彦 「日常身辺の物理的諸問題」
・・・勤先の国立出版所から一ヵ月半休暇をもらってクリミヤの休養所へ行って居る。――どんなだって?――初めのうち大変よかったけれども、あとはそうでもないように書いてよこしました。でももう直きかえって来るでしょう。――どうして? よくなら・・・ 宮本百合子 「一九二九年一月――二月」
・・・ 小姓は箙を負い半弓を取って、主のかたわらに引き添った。 寛永十九年四月二十一日は麦秋によくある薄曇りの日であった。 阿部一族の立て籠っている山崎の屋敷に討ち入ろうとして、竹内数馬の手のものは払暁に表門の前に来た。夜通し鉦太・・・ 森鴎外 「阿部一族」
出典:青空文庫