・・・三年経った今日、わたしたちの周囲に、いまはじめて、文学にふれてゆく人のために、最も多い偶然として氾濫している雑誌、小説類は、どんな種類のものだろう。衣、食、住、愛憎の主題に戻って、今日の出版物の多くを眺めると、戦争が社会の安定を破壊し、個々・・・ 宮本百合子 「新しい文学の誕生」
・・・しかも、作者は一種の熱中をもって主人公葉子の感情のあらゆる波を追究しようとしていて、時には表現の氾濫が感じられさえする。 葉子というこの作の主人公が、信子とよばれたある実在の婦人の生涯のある時期の印象から生れているということはしばしば話・・・ 宮本百合子 「「或る女」についてのノート」
・・・ 早苗の死、其に連関して全く消極の働きを起した老傅役の自殺、子義信の反乱が、信玄の心にどう影響したか。自分は其が知りたかった。其点がはっきりしてこそ、早苗が、只、敵方に騙り寄せられた城将の妻が古来幾度か繰返したような自裁を決行したのか、・・・ 宮本百合子 「印象」
・・・ ローレンスの勇気にかかわらず、その勇気の本質は神経的であり、感覚の反乱であったことが、否定しがたく明瞭になって来る。こんにち、わたしたちが、かりに一人の未亡人の生活の上に、とざされた性の課題を見出すとき、それは社会的な複雑な条件に包囲・・・ 宮本百合子 「傷だらけの足」
・・・しかも、こちらは、愚劣な雑音の氾濫を頭から浴びせられているばかりで、それを調整するために自分の手を出すことはもちろん、やかましいスウイッチを切る自由さえも与えられていない。それは役所の日課の時間割によって、忠実になされているのであるから。私・・・ 宮本百合子 「芸術が必要とする科学」
・・・この連作の題材は、ドイツの農民が、動物のような扱いをうける生活に耐えかねて十六世紀に各地で叛乱をおこし多くの犠牲を出した、その悲劇からとられた。 このルネッサンス時代の芸術の古都フローレンスの逗留が、四十三歳であったケーテにどのような芸・・・ 宮本百合子 「ケーテ・コルヴィッツの画業」
二、三日前の新聞に、北満の開拓移民哈達河開拓団二千名の人々が、敗戦と同時に日本へ引揚げて来る途中、反乱した満州国軍の兵に追撃され、四百数十名の婦女子が、家族の内の男たちの手にかかって自決させられたという記事がありました。・・・ 宮本百合子 「講和問題について」
・・・巨大資本にしたがえられた商業ジャーナリズム・商品文学の氾濫を批判してすべての作家たちと読者とは、「小説病」は防がれ治癒されなければならないと考えている。そのための必要な文学行動はとりもなおさずジャーナリズムを支配しようとしているのと本質にお・・・ 宮本百合子 「五月のことば」
・・・ ジャーナリズムの上に氾濫している小説の数によって、一つの民族がろくな文学も持たない「島の住民」となる危険から保障されていると云えるものはない。一つの民族の社会と文学の健全にとっては、少数の西欧文学精神のうけつぎてが、自国の文学について・・・ 宮本百合子 「心に疼く欲求がある」
・・・ 二 前年までの肉体文学は、よりひろい風俗文学、中間小説とよばれる読もの小説の氾濫に合流した。これらの文学は、戦争中、こぞってそのほとんどが戦争肯定をしていたように、きょうはきょうなりのなまぐさい風のまにま・・・ 宮本百合子 「五〇年代の文学とそこにある問題」
出典:青空文庫