・・・精女 まことに――我がままで相すみませんでございますけれ共お主様に捧げました体でございますから自分の用でひまをつぶす事は気がとがめますでございますから今日は御許しあそばして――第一の精霊 お主様に捧げた? おしい事じゃ、ほんにおしい・・・ 宮本百合子 「葦笛(一幕)」
・・・それがどんな脚本かと云うと、censure の可笑しい程厳しいウィインやベルリンで、書籍としての発行を許しているばかりではない、舞台での興行を平気でさせている、頗る甘い脚本であった。 しかしそれは三面記者の書いた事である。木村は新聞社の・・・ 森鴎外 「あそび」
・・・のみならず、どこかで栖方をまだ狂人と思っているところがあって、何を云っても彼を許しておけるのだった。「父島まではどれほどかかるのです。」「二時間です。あそこの電力は弱いから、実験は思うようには出来ないんですよ。それでも、一万フィート・・・ 横光利一 「微笑」
・・・私はまだ愛するものの罪を完全には許し得ないのである。愛するものの運命をことごとく担ってやることもできないのである。それどころではない。迷う者を憐れみ、怒るものをいたわることすらもなし得ない。力の不足は愛の不足であった。我を張るのは自己を殺す・・・ 和辻哲郎 「生きること作ること」
出典:青空文庫