・・・そんなことを云いながら、ぶらりと椎の大木の下にある門をくぐって別の庭へ歩みこんで、私共は急にばつのわるいような顔つきを合わせた。春の頃は空の植木鉢だの培養土だのがしかし呑気に雑然ころがっていた古風な大納屋が、今見れば米俵が軋む程積みあげられ・・・ 宮本百合子 「この初冬」
・・・彼女は、父や兄達が下らないことで勿体ぶり威張るのを見たり、場外れに大仰なことをしたりするのを見ると、妙にばつの悪い眼をパチリとやらずにいられない擽ったさを感じずにはいられなくなりました。 この心持は、もう暫く経つと、男と云うものは、偉い・・・ 宮本百合子 「「母の膝の上に」(紹介並短評)」
・・・ 同時に、これまで経験したことのない妙なばつわるさ、居心地のわるい瞬間が、ゴーリキイの生活に混りこんで来た。これらの学生達は目の前へ彼を置いて「まるで指物師が並々ならぬものを作ることの出来る木の一片でも見るよう」な眼付でゴーリキイを眺め・・・ 宮本百合子 「マクシム・ゴーリキイの伝記」
・・・同時に、かつて経験したことのない妙なばつわるさ、居心地わるい瞬間が、ゴーリキイの生活に混りこんで来た。これらの学生達は目の前へ彼を置いて、「まるで指物師が並々ならぬものを作ることの出来る木の一片でも見るよう」な眼付でゴーリキイを眺めた。「子・・・ 宮本百合子 「マクシム・ゴーリキイの発展の特質」
・・・とか感嘆し合うのが少なからず彼にばつの悪い思いをさせるのであったが、ゴーリキイは、彼らに対して深い興味と渇望とをもって接した。少くとも、生活をいい方へ向けようと努力している一団の人々をゴーリキイは見たのである。 この「人民主義」の学生達・・・ 宮本百合子 「マクシム・ゴーリキイの人及び芸術」
・・・ ずっと後になってから私はその頃のことを思い出し、母にきいたが、母は一寸ばつのわるいような笑いかたで、へえそんなことがあったかしらと云い、もう自分がそれをどう始末したのか思い出すことも出来なかった。 読めばふき出すようなことが書かれ・・・ 宮本百合子 「行方不明の処女作」
・・・とか感歎する当時の学生の子供っぽい気分も彼に、ばつの悪い思いをさせた。五つの時からその日まで彼が揉まれ、既に「人間をつくるものは周囲の環境への抵抗である」と感じている民衆生活の現実の中で、ゴーリキイは学生の云うような民衆は見ていない。民衆は・・・ 宮本百合子 「逝けるマクシム・ゴーリキイ」
出典:青空文庫