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・・・闇のひくか、光りの進むか、ウィリアムの眼の及ぶ限りは、四面空蕩万里の層氷を建て連らねたる如く豁かになる。頭を蔽う天もなく、足を乗する地もなく冷瓏虚無の真中に一人立つ。「君は今いずくに居わすぞ」と遙かに問うはかの女の声である。「無の中・・・
夏目漱石
「幻影の盾」
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・・・前日の百五十三万里に比して三万里近くなって居る一時間正ニ千二百五十里 一分分にしても二十一里弱 文字通り宙をとんで来た。 上野の自働電話 直ぐとなりにバナナのたたき売りあり、電話の話と混同する「ああもしもしえ・・・
宮本百合子
「一九二七年春より」