・・・されども余の素願は、固より彼女の内部に潜める才能を認め、願くば其外部の附属物を除かんとするにありしが故に、自今と雖も若し嘗て余の行為にして彼女をいさゝかなりとも苦しましめしものありとせば、余は甘んじて是を除去するに勉めざる可からず』と。是れ・・・ 宮本百合子 「「或る女」についてのノート」
・・・此の潜める生来の彼の高貴な稟性は、終に彼の文学から我が文学史上に於て曾て何者も現し得なかった智的感覚を初めて高く光耀させ得た事実をわれわれは発見する。かくしてそれは、清少納言の官能的表徴よりも遥に優れた象徴的感覚表徴となって現れた。それは彼・・・ 横光利一 「新感覚論」
・・・で、ただやたらに馬の前で顔を顰めると、再び、「こりゃッ、こりゃッ。」と叫んで地を打った。 馬は槽の手蔓に口をひっ掛けながら、またその中へ顔を隠して馬草を食った。「お母ア、馬々。」「ああ、馬々。」 六「・・・ 横光利一 「蠅」
・・・しかれどもこの影に潜める悪習慣を見よ! 吾人はあえて一二の例を取る。そもそもかのストームは何であるか。かつて初めて向陵の人となり今村先生に醇々として飲酒の戒を聞いたその夜、紛々たる酒気と囂々たる騒擾とをもって眠りを驚かす一群を見て嫌悪の念に・・・ 和辻哲郎 「霊的本能主義」
出典:青空文庫