・・・数馬の脾腹を斬られたのはこの刹那だったと思いまする。相手は何か申しました。………」「何かとは?」「何と申したかはわかりませぬ。ただ何か烈しい中に声を出したのでございまする。わたくしはその時にはっきりと数馬だなと思いました。」「そ・・・ 芥川竜之介 「三右衛門の罪」
・・・もしその時でも油断していたらば、一突きに脾腹を突かれたでしょう。いや、それは身を躱したところが、無二無三に斬り立てられる内には、どんな怪我も仕兼ねなかったのです。が、わたしも多襄丸ですから、どうにかこうにか太刀も抜かずに、とうとう小刀を打ち・・・ 芥川竜之介 「藪の中」
・・・ と横のめりに平四郎、煙管の雁首で脾腹を突いて、身悶えして、「くッ、苦しい……うッ、うッ、うッふふふ、チ、うッ、うううう苦しい。ああ、切ない、あはははは、あはッはッはッ、おお、コ、こいつは、あはは、ちゃはは、テ、チ、たッたッ堪らん。・・・ 泉鏡花 「売色鴨南蛮」
・・・と逆に半身を折って、前へ折曲げて、脾腹を腕で圧えたが追着かない。身を悶え、肩を揉み揉みへとへとになったらしい。……畦の端の草もみじに、だらしなく膝をついた。半襟の藍に嫁菜が咲いて、「おほほほほほほ、あはははは、おほほほほほ。」 そこ・・・ 泉鏡花 「みさごの鮨」
・・・ 病気 姉が病気になった。脾腹が痛む、そして高い熱が出る。峻は腸チブスではないかと思った。枕元で兄が「医者さんを呼びに遣ろうかな」と言っている。「まあよろしいわな。かい虫かもしれませんで」そして峻にともつかず・・・ 梶井基次郎 「城のある町にて」
出典:青空文庫