・・・それはなにも監督が不正なことをしていたからではなく会計上の知識と経験との不足から来ているのに相違ないのだが、父はそこに後ろ暗いものを見つけでもしたようにびしびしとやり込めた。 彼にはそれがよく知れていた。けれども彼は濫りなさし出口はしな・・・ 有島武郎 「親子」
・・・彼れはいらだってびしびしと鞭をくれた。始めは自分の馬の鼻が相手の馬の尻とすれすれになっていたが、やがて一歩一歩二頭の距離は縮まった。狂気のような喚呼が夢中になった彼れの耳にも明かに響いて来た。もう一息と彼れは思った。――その時突然桟敷の下で・・・ 有島武郎 「カインの末裔」
・・・思議な女が、件の嫉妬で死んだ怨霊の胸を発いて抜取ったという肋骨を持って前申しまする通り、釘だの縄だのに、呪われて、動くこともなりませんで、病み衰えておりますお雪を、手ともいわず、胸、肩、背ともいわず、びしびしと打ちのめして、(さあどうだ・・・ 泉鏡花 「湯女の魂」
・・・ 或日、そのほろ馬車の一つが、びっこの馬へびしびしむちを入れながら、でこぼこのしき石の上をがたがたと、肉屋のとおりへはいって来ました。「やあ、来た来た、犬殺しの馬車が来た。」と、向いの人が往来でどなりました。肉屋は、「どら。」と・・・ 鈴木三重吉 「やどなし犬」
出典:青空文庫