・・・於けるブルジョア文化の一形態であったキリスト教婦人同盟の主宰者として活躍した葉子の母の、権力を愛し、主我的な生き方に対して自然の皮肉な競争者として現われた娘葉子が、少女時代から特殊な環境の中で驚くべき美貌と才気とを発揮させつつ、いつしか並は・・・ 宮本百合子 「「或る女」についてのノート」
斯ういう感情上のことは、各人各様であって、「男子は」「婦人は」と概括的に考えると、至極平凡なつまらないものになってしまいます。此世の何より、金持がいい人もあろう。美貌の異性がよい人もあろう。知識的なのが第一な人もあるでしょ・・・ 宮本百合子 「異性の何処に魅せられるか」
・・・へ来た時代に大儒息軒先生として知られ、雲井龍雄、藤田東湖などと交友のあった大痘痕に片眼、小男であった安井仲平のところへ、十六歳の時、姉にかわって進んで嫁し、質素ながら耀きのある生涯を終った佐代子という美貌の夫人の記録である。「ともすれば時勢・・・ 宮本百合子 「鴎外・漱石・藤村など」
・・・榕子の言葉は、こんにち、こんどは美貌の女の唇をとおして日本の中で、語られる極めてインヒューマンな発言である。自分の夫を、なぐったり蹴ったりして殺した下士官広瀬に復讐を思い立つが、「目の前で見ていると、それは男らしくて美しい顔だちの人で」その・・・ 宮本百合子 「傷だらけの足」
・・・ ○○された少年 美貌、十六 入院、身体不動 看護婦さわぐ。うるさく。なめる。すいつく。 一人、自分から勝手にひどいことをする。そこへ別のが入って来、黙って見て居たが、泣き出す。すっかり泣いてからだまって・・・ 宮本百合子 「一九二五年より一九二七年一月まで」
・・・更に、彼の半生を支配してパリにしばりつけるほどの魅力の根源となった婦人、彼によって描かれるばかりでなく、彼をして書かしめる力となった活溌な、美貌の歌手ヴィアルドオ夫人との微妙な関係を知らねばならない。 しかしながら、現実の生活において何・・・ 宮本百合子 「ツルゲーネフの生きかた」
・・・ 勿論この間には、多少生活感情上の暗闘がなかった訳ではありませんが、彼女は、稀な美貌と事務的敏腕を兼備し、その上、著名な良人を持ち、ロンドンでも数少ない程、調ったよき家庭の主婦であると云う素晴らしい調和で有名な一人の女性となりました。・・・ 宮本百合子 「「母の膝の上に」(紹介並短評)」
・・・お茶々と呼ばれた少女の淀君は、美貌の母と共に秀吉の捕虜となって育った。彼女の美しさは、昔秀吉が恋着した母の美しさを匂うばかりの若さのうちに髣髴させた。年齢の相異や境遇の微妙さはふきとばして、彼女を寵愛した。錦に包まれて暮しながら、お茶々とい・・・ 宮本百合子 「私たちの建設」
・・・それは若くて美しいと思われた人も、しばらく交際していて、智慧の足らぬのが暴露してみると、その美貌はいつか忘れられてしまう。また三十になり、四十になると、智慧の不足が顔にあらわれて、昔美しかった人とは思われぬようになる。これとは反対に、顔貌に・・・ 森鴎外 「安井夫人」
出典:青空文庫