・・・その言にいわく、近来我が国の子弟は、その品行ようやく軽薄におもむき、父兄の言を用いず、長老の警をかえりみず、はなはだしきは弱冠の身をもって国家の政治を談じ、ややもすれば上を犯すの気風あるが如し。ひっきょう、学校の教育不完全にして徳育を忘れた・・・ 福沢諭吉 「徳育如何」
・・・近く喩えを取り、今日の婦人女子をして、その良人父兄の品行を学ぶことあらしめたらばこれを如何せん。試みに男子の胸裡にその次第の図面を画き、我が妻女がまさしく我に傚い、我が花柳に耽ると同時に彼らは緑陰に戯れ、昨夜自分は深更家に帰りて面目なかりし・・・ 福沢諭吉 「日本男子論」
・・・りて、再挙の望なきにあらずとてその死を留めたりしかども、羽はこれを聴かず、初め江東の子弟八千を率いて西し、幾回の苦戦に戦没して今は一人の残る者なし、斯る失敗の後に至り、何の面目か復た江東に還りて死者の父兄を見んとて、自尽したるその時の心情を・・・ 福沢諭吉 「瘠我慢の説」
・・・「どれ、ちょっとお見せ、ははあ、学校生徒の父兄にあらずして十二歳以上の来賓は入場をお断わり申し候、狐なんて仲々うまくやってるね。僕はいけないんだね。仕方ないや。お前たち行くんならお餅を持って行っておやりよ。そら、この鏡餅がいいだろう。」・・・ 宮沢賢治 「雪渡り」
・・・ 学校の問題については、先生と父兄とにだけ万事をまかせて、生徒として困ったことがあるときは、陰で不平を云ったり、詰らながったりしていなくてはならなかったのは、もとのことです。今日の生徒は、学校というものを、本当に自分たちが成長してゆくた・・・ 宮本百合子 「美しく豊な生活へ」
・・・ もとの日本では、子供の教育に責任をもつのは、父兄であるとされていました。けれども、日本の教育方針が改められて、軍国主義の教育をすて、国民の一人一人が社会を運営してゆく能力をもつために民主的な教育が要求されてから、母も父と並んで、子供の・・・ 宮本百合子 「今年こそは」
・・・民法が戸主の権利を縮小したからといって住宅難で若夫婦が父兄の家の一隅を借りていなければならないとき、資本主義社会で育ってきた人々の心持の中は、金銭問題や、義理がからんで、実際の封建的な家長の気分はのけられません。住宅問題は、政府の空手形の標・・・ 宮本百合子 「今度の選挙と婦人」
・・・ 信濃教育会教育研究所が、小学生の行動について父兄が問題だと考える点を調査したら、「無作法」各学年を通じて七〇%、「根気がない」三年七六%、六年七三%、「理窟をこねるが実行力がない」各学年四二%そのほかだった。青少年の育ってゆく精神・・・ 宮本百合子 「修身」
・・・モナ・リザは、果して、レオナルドが、それを未完成として、いつも自分の傍にとどめておくことに不満を感じただろうか。モナ・リザは、父兄の命令によってその選ばれた人との結婚をし、やがて良人の権力のままに一生を送らねばならなかったイタリーの婦人の運・・・ 宮本百合子 「女性の歴史」
・・・「あすこは父兄が、そろっているから」という理由だそうである。日本のニヒリストとして、一部の人々から崇敬されているある文学者も、その貰った息子は学習院へ通わしている。 都内の小学校の生活は、街と家庭にあふれる社会の悪にさらされていて、十一・・・ 宮本百合子 「戦争はわたしたちからすべてを奪う」
出典:青空文庫