・・・わたくしは自ら制しがたい獣慾と情緒とのために、幾度となく婦女と同棲したことがあったが、避姙の法を実行する事については寸毫も怠る所がなかった。 わが亡友の中に帚葉山人と号する畸人があった。帚葉山人はわざわざわたくしのために、わたくしが頼み・・・ 永井荷風 「西瓜」
・・・故ニ花候ニ当テハ輪蹄陸続トシテ文士雅流俗子婦女ノ別ナク麕集シ蟻列シ、繽紛狼藉人ヲシテ大ニ厭ハシムルニ至ル。シカシテ風雨一過香雲地ニ委ヌレバ十里ノ長堤寂トシテ人ナキナリ。知ラズ我ガ上ノ勝ハ桜花ニ非ズシテ実ニ緑陰幽草ノ侯ニアルヲ。モシソレ薫風南・・・ 永井荷風 「向嶋」
・・・ 僕は銀座街頭に於て目撃する現代婦女の風俗をたとえて、石版摺の雑誌表紙絵に均しきものとなした。それはまた化学的に製造した色付葡萄酒の味にも似ている。日光の廟門を模擬した博覧会場の建築物にも均しい。菊人形の趣味に一層の俗悪を加えたものであ・・・ 永井荷風 「申訳」
戦争後に流行しだしたものの中には、わたくしのかつて予想していなかったものが少くはない。殺人姦淫等の事件を、拙劣下賤な文字で主として記載する小新聞の流行、またジャズ舞踊の劇場で婦女の裸体を展覧させる事なども、わたくしの予想し・・・ 永井荷風 「裸体談義」
・・・是れ必竟するに清元常磐津直接に聞手の感情の下に働き、其人の感動を喚起し、斯くて人の扶助を待たずして自ら能く説明すればなり。之を某学士の言葉を仮りていわば、是れ物の意保合の中に見われしものというべき乎。 然るに意気と身といえる意は天下の意・・・ 二葉亭四迷 「小説総論」
・・・河内路や東風吹き送る巫女が袖雉鳴くや草の武蔵の八平氏三河なる八橋も近き田植かな楊州の津も見えそめて雲の峰夏山や通ひなれたる若狭人狐火やいづこ河内の麦畠しのゝめや露を近江の麻畠初汐や朝日の中に伊豆相模大・・・ 正岡子規 「俳人蕪村」
・・・ 明治はじめの自由民権が叫ばれて、婦人がどしどし男子と等しい教育をうけ、政治演説もし、男女平等をあたり前のことと考えた頃、日本では、木村曙「婦女の鑑」、若松賤子「忘れ形見」などの作品が現れた。若い婦人としてよりよい社会を希望するこころも・・・ 宮本百合子 「明日咲く花」
・・・ 三 遊廓は、封建的な婦女の市場だった。徳川時代、武士と町人百姓の身分制度はきびしくて、町人からの借金で生計を保つ武士にも、斬りすて御免の権力があった。高利貸資本を蓄積して徳川中葉から経済力を充実させて来た・・・ 宮本百合子 「偽りのない文化を」
・・・ 凡そ一年も出してもらえたらと栄蔵は云ったけれ共病気の性をよくしって居る主婦は、とうていそれだけの間になおらない事を知って居たし、沢山の子供の学費、食客の扶助などで、中々入るから熟考した上での返事がいいと思って、又明日来てくれれば返事を・・・ 宮本百合子 「栄蔵の死」
・・・『漁村』には、各県の漁業の合理化の方策がのせられていて、婦人に関する項目として、陸上の仕事はなるたけ婦人にさせること、日常生活の合理化を教え、衛生、育児の知識を授けること、女子漁民道場をこしらえて漁村婦女の先駆者たらしめることなどの案が示さ・・・ 宮本百合子 「漁村の婦人の生活」
出典:青空文庫