・・・自分がその若い者の主人の立場にいるということで、その娘さんには主人と雇人との利害の撥き合う面だけが感じられて、しかも、自分にとって不利を与えられたことの怒りだけに立って、その気持に自分をまかせ切っているのであった。 そういう生活の感情を・・・ 宮本百合子 「女の自分」
・・・書類というものはなかったから、どうも技術家の不利である。そこで、もう一人の専務が羽織を一着に及んだ乾分をO・T社長宅へやった。行った人間は、白鞘をすこしのぞかせたそうだ。裁判は急転直下、有利に解決し、今度は乾分をやった方の男が音頭をとって経・・・ 宮本百合子 「くちなし」
・・・ 母親は、不服げに、十分意味はさとらず、然しぼんやりそれが何か不利を招くと直覚して黙り込む。だが、すぐ別のことから、同じ問題へ立ち戻る。 親たちの日常生活は勤労階級の生活でなく、母親は若い頃からの文学的欲求や生来の情熱を、自分独特の・・・ 宮本百合子 「刻々」
・・・「所謂戦後派と言われたヨーロッパ的小説方法の実践者の運動が、出版景気の減退に伴って不利になって来た」不利は、物的事情にとどまらず、業者とその気分に雷同する一部の作家間に、もうアプレ・ゲールでもないだろう、と咲きのこりの昼顔でも見るような態度・・・ 宮本百合子 「五〇年代の文学とそこにある問題」
・・・と、さながら戦況の不利を目の前に見ているように「何という無念!」という感情で語りすすめている。読者は、専門家の生々した話しぶりにひきいれられ、スリルを刺戟され、われ知らず筆者の感情の流れにひきいれられている。そのようなミッドウェイの敗北をひ・・・ 宮本百合子 「ことの真実」
・・・が廃止されることは、健全な結婚の可能性が我々の生きる今日の社会条件の中に増大されたのではなくて、多額納税議員をもその中から出している女郎屋の楼主たちが、昨今の情勢で営業税その他を課せられてまでの経営は不利と認めたからである。 文芸春・・・ 宮本百合子 「昨今の話題を」
・・・この間泉川検事は、君は九分九厘不利だという言葉を執ようにくりかえした。治安維持法時代から特高として働いてきたツゲ事務官は、尾崎秀実の例をひいて「彼は遂に刑場の露と消えた。彼は真実に生きていた。最後まで真実を主張して自分の真理に生きた。そうし・・・ 宮本百合子 「それに偽りがないならば」
・・・力抜山気被世 時不利 の詩をいつもよりしみじみとくり返してよんで居たら段々声が大きくなってしまったんで「それこそほんとうのじゃじゃだ」と云われたんでびっくりしてゆるんだ口元をたてなおすひまもなくつづけざまに笑われたんでやたら・・・ 宮本百合子 「日記」
・・・未来の女性のひろやかでつよく快い生活力への期待は、今日と明日の若いあまたの女性たちが、このように不利であり不備である時代の現実のなかで、なおかつ未熟ながらも精いっぱいによく生きて自分たちの世代の価値を発揮しようとつとめてゆく実際を、ぬいて考・・・ 宮本百合子 「働く婦人の新しい年」
・・・離婚の問題も婦人に不利であった条件を、男子と同等なものにしようとされていますし、刑法の上で、特に婦人にだけきびしかった姦通罪が消滅しました。 その中心にまだ天皇一族の特権をひろく認めているような憲法が、民主憲法といいきれないことは世界の・・・ 宮本百合子 「婦人大会にお集りの皆様へ」
出典:青空文庫