・・・麝香入の匂袋ででもある事か――坊は知るまい、女の膚身を湯で磨く……気取ったのは鶯のふんが入る、糠袋が、それでも、殊勝に、思わせぶりに、びしょびしょぶよぶよと濡れて出た。いずれ、身勝手な――病のために、女の生肝を取ろうとするような殿様だもの…・・・ 泉鏡花 「絵本の春」
・・・ 姉さん、そうすると、その火がよ、大方浪の形だんべい、おらが天窓より高くなったり、船底へ崖が出来るように沈んだり、ぶよぶよと転げやあがって、船脚へついて、海蛇ののたくるようについて来るだ。」「………………」「そして何よ、ア、ホイ・・・ 泉鏡花 「海異記」
・・・その目からも、ぶよぶよした唇からも、汚い液が垂れそうな塩梅。「お慈悲じゃ。」と更に拝んで、「手足に五寸釘を打たりょうとても、かくまでの苦悩はございますまいぞ、お情じゃ、禁厭うて遣わされ。」で、禁厭とは別儀でない。――その紫玉が手にした白金の・・・ 泉鏡花 「伯爵の釵」
・・・髪の毛は段々と脱落ち、地体が黒い膚の色は蒼褪めて黄味さえ帯び、顔の腫脹に皮が釣れて耳の後で罅裂れ、そこに蛆が蠢き、脚は水腫に脹上り、脚絆の合目からぶよぶよの肉が大きく食出し、全身むくみ上って宛然小牛のよう。今日一日太陽に晒されたら、これがま・・・ 著:ガールシンフセヴォロド・ミハイロヴィチ 訳:二葉亭四迷 「四日間」
・・・つまんで見ると殻は柔らかくてぶよぶよしていた。一つ鋏にかかってつぶれたのをあけて見たら中には蜥蜴のかえりかかったのがはいっていたそうである。「人間のおなかの中にいるときとよく似ているわ」とそばから小さな女の子が付け加えた。私は非常に驚いてこ・・・ 寺田寅彦 「芝刈り」
出典:青空文庫