・・・ぎしぎしと音がして、青黄色に膨れた、投機家が、豚を一匹、まるで吸った蛭のように、ずどうんと腰で摺り、欄干に、よれよれの兵児帯をしめつけたのを力綱に縋って、ぶら下がるように楫を取って下りて来る。脚気がむくみ上って、もう歩けない。 小児のつ・・・ 泉鏡花 「木の子説法」
・・・D君は現在教育制度の欠陥を論じて、日本人は小学から大学までただ満員電車にぶら下がる術を教わるばかりだと云った。E君は、国民の哲学的宗教的背景が欠けている事を痛論した。 X君とZ君だけは自分の大浴場説に賛成した。しかし浴場に附属した礼拝堂・・・ 寺田寅彦 「電車と風呂」
・・・これは人間の祖先の猿が手で樹枝からぶら下がる時にその足で樹幹を押えようとした習性の遺伝であろうと言った学者があるくらいであるから、猫の足踏みと文明人のダンスとの間の関係を考えてみるのも一つの空想としては許されるべきものであろう。・・・ 寺田寅彦 「備忘録」
・・・出し抜けに袖にぶら下がるのだもの。わたしびっくりしたわ。」お松もこうは云ったが、足を止めた。「あの、ひゅうひゅうと云うのはなんでしょう。」「そうさねえ。梯子を降りた時から聞えてるわねえ。どこかここいらの隙間から風が吹き込むのだわ。」・・・ 森鴎外 「心中」
出典:青空文庫