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・・・ グイグイ体でステッキとレイン・コートの間をおしわけ、その中へ入ってみたら、ホンの数百人、赤旗を中心に憂鬱な、カンシャクを喰いしばったような顔をしたデモがたっている。 歌をうたうものもない。反動青年団の袋の中へ追い込まれ、出るもひくもで・・・
宮本百合子
「ワルシャワのメーデー」
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・・・おっかなく、ヒョット殿さまが出ていらしッたらどうしようと、おそるおそる徳蔵おじの手をしっかり握りながら、テカテカする梯子段を登り、長いお廊下を通って、漸く奥様のお寝間へ行着ましたが、どこからともなく、ホンノリと来る香は薫り床しく、わざと細め・・・
若松賤子
「忘れ形見」