・・・こんな慌しい書き方をした文章でも、江口を正当に価値づける一助になれば、望外の仕合せだと思っている。 芥川竜之介 「江口渙氏の事」
・・・昔なつかしさに、たまに遊びにでもやって来た時、諸君が私に数日の宿を惜しまれなかったら、それは私にとって望外の喜びとするところです。 この上いうことはないように思います。終わりに臨んで諸君の将来が、協力一致と相互扶助との観念によって導かれ・・・ 有島武郎 「小作人への告別」
・・・しかし、其の間に介在する灰色の階級や、主義者は、却って相互の闘争的精神を鈍らせるばかりでなく、真理に向っての前進を阻止する妨害をなすことを知らなければならない。一般に知識階級が、ある時期に際して、憎視され、甚だしき反感を買うのは、これがため・・・ 小川未明 「芸術は革命的精神に醗酵す」
・・・スパイは、僕等の結婚や、お祝いごとまでも妨害するのだ。僕は、若し、いつか親爺が死んだら、子として、親爺の霊を弔わなければならない。子として、親爺の葬儀をしなければならない。その時にでも、スパイは、小うるさく、僕の背後につき纒って、墓場にまで・・・ 黒島伝治 「鍬と鎌の五月」
・・・ 彼等は、自分の生存を妨害する犬どもを、撃滅してしまわずにはいられない欲求に迫られてきた。………… ウォルコフは、憎悪に満ちた眼で窓から、丘に現れた兵士を見ていた。 丘に散らばった兵士達は、丘を横ぎり、丘を下って、喜ばしそうに何・・・ 黒島伝治 「パルチザン・ウォルコフ」
・・・聞くもの大笑せぬはなく、意外、望外の拍手、大喝采。ああ、かの壇上の青黒き皮膚、痩狗そのままに、くちばし突出、身の丈ひょろひょろと六尺にちかき、かたち老いたる童子、実は、れいの高い高いの立葵の精は、この満場の拍手、叫喚の怒濤を、目に見、耳に聞・・・ 太宰治 「二十世紀旗手」
・・・どうにかして妨害せねばならぬ。 さてどうしたものだろう。困る事には、ポルジイは依怙地な奴で、それが出来ないなら云々すると、暗に種々の秘密を示して脅かす。それが総て身分不相応な事である。そこで邸では幾度となく秘密の親族会議が開かれた。弁護・・・ 著:ダビットヤーコプ・ユリウス 訳:森鴎外 「世界漫遊」
・・・のすぐあとでこのフランス的なるフランス映画を見たことは望外のおもしろい回り合わせであった。さもしい譬喩ではあるが、言わばビフテキのあとで良いサラダを食ったような感じがある。あるいはまたドイツの近代画家の絵とフランス近代画家の絵との二つの展覧・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(1[#「1」はローマ数字、1-13-21])」
・・・しかしもし現代の読者のうちでこれと類似の怪異伝説あるいは地鳴りの現象についてなんらかの資料を教えてくれる人でもあれば望外の幸いである。 二 次に問題にしたいと思う怪異は「頽馬」「提馬風」また濃尾地方で「ギバ」と称・・・ 寺田寅彦 「怪異考」
・・・この事に関する誤解が往々正常なる科学の普及を妨害しているように見える。これは惜しむべきことである。 文章と科学「甲某の論文は内容はいいが文章が下手で晦渋でよくわからない」というような批評を耳にすることがしばしばある。・・・ 寺田寅彦 「科学と文学」
出典:青空文庫