・・・先生は新刊第三巻の冒頭にある緒論をとくに思慮ある日本人に見てもらいたいといわれる。先生から同書の寄贈を受ける日それを一読して満足な批評を書き得るならば、そうして先生の著書を天下に紹介する事が出来得るならば余の幸である。先生の意は、学位を辞退・・・ 夏目漱石 「博士問題とマードック先生と余」
・・・ 冒頭第一、女は容よりも心の勝れたるを善とすと言う。女子の天性容色を重んずるが故に、其唯一に重んずる所の容よりも心の勝れたるこそ善けれと記して、文章に力を付けたるは巧なりと雖も、唯是れ文章家の巧として見る可きのみ。其以下婦人の悪・・・ 福沢諭吉 「女大学評論」
・・・ 本編の趣旨は、初段の冒頭にもいえる如く、日本男児の品行を正し、その高きに過ぐる頭を取って押さえ、男女両性の地位に平均を得せしめんとするの目的を以て論緒を開き、人間道徳の根本は夫婦の間にあり、世間の道徳論者が自愛博愛などとてその得失を論・・・ 福沢諭吉 「日本男子論」
・・・今もいったツルゲーネフの『ファーザース・エンド・チルドレン』の冒頭を、少々ばかり訳したことなどもあるが、坪内さんに見せたばかりで物にはならなかった。『浮雲』にはモデルがあったかというのか? それは無いじゃないが、モデルはほんの参考で、引写し・・・ 二葉亭四迷 「予が半生の懺悔」
〔冒頭原稿一枚?なし〕以外の物質は、みなすべて、よくこれを摂取して、脂肪若くは蛋白質となし、その体内に蓄積す。」とこう書いてあったから、農学校の畜産の、助手や又小使などは金石でないものならばどんなものでも片っ端から、持っ・・・ 宮沢賢治 「フランドン農学校の豚」
一、ペンネンネンネンネン・ネネムの独立 〔冒頭原稿数枚焼失〕のでした。実際、東のそらは、お「キレ」さまの出る前に、琥珀色のビールで一杯になるのでした。ところが、そのまま夏になりましたが、ばけものたちはみんな騒ぎ・・・ 宮沢賢治 「ペンネンネンネンネン・ネネムの伝記」
〔冒頭原稿数枚なし〕「ふん。こいつらがざわざわざわざわ云っていたのは、ほんの昨日のようだったがなあ。大抵雪に潰されてしまったんだな。」 それから若い木霊は、明るい枯草の丘の間を歩いて行きました。 丘の窪みや皺に、・・・ 宮沢賢治 「若い木霊」
・・・の戦争進行の程度につれて、わたしの文章はふくみ声になって来ている。云いたいこと、表現すべき言葉がぼかされたり、暗示にとどまったり、省略されたりしている。「鈍・根・録」の冒頭の文章では警察と留置されていた自分の関係がぼやかされていて、きょうの・・・ 宮本百合子 「あとがき(『宮本百合子選集』第五巻)」
・・・ 小説の冒頭には、ワシントン百年祭当日、アメリカの共産党によって指導された民衆の、中国から手をひけ、ソヴェト同盟を守れ、とスローガンをかかげた大衆的示威運動の光景が描かれ、チャーリー中野もそれに参加したと紹介されている。ニューヨークの反・・・ 宮本百合子 「一連の非プロレタリア的作品」
・・・「物価暴騰時代。損をしない心得」この記事をよんで、『キング』が大衆の支持を失う日はもう見えていると強く感じた。 軍事経済政策で日用品の物価はこの五ヵ月間に三割近くあがったが、損をしないためには、「干饂飩なんかは一年分位買いため」「米・・・ 宮本百合子 「『キング』で得をするのは誰か」
出典:青空文庫