・・・その間の盆地数十里の間、行けど、行けど、青々と茂った稲ばかりである。 関東の農村は、汽車でとおっても、雑木林をぬけたところには畑があり、そこでヒエが穂を出しているかと思うと、南瓜畑があり、田圃の上にはとうもろこしのひろい葉がゆれている。・・・ 宮本百合子 「青田は果なし」
・・・ ○寒い日当りのよいところがよい ○夜のうちに凍らす ○甲府 ○兀突と結晶体のような山骨 ○山麓のスロープから盆地に向って沢山ある低い人家 ○山嶺から滝なだれに氷河のような雪溪がながれ下って居る。・・・ 宮本百合子 「一九二七年春より」
・・・ 行けば行くほど広くなる谿は、いつの間にか、白楊や樫や、糸杉などがまるで、満潮時の大海のように繁って、その高浪の飛沫のように真白な巴旦杏の花が咲きこぼれている盆地になりました。 そして、それ等の樹々の奥に、ジュピタアでもきっと御存じ・・・ 宮本百合子 「地は饒なり」
・・・ 伊豆地方の大震災 惨たる各地の被害 震源地は丹那盆地 死者二百三十二名 伊豆震災救済策 震災地方の納税減免 国庫負担法で業務教育費交付 両腕の動かしかたに共通の一種独特の職業的癖をもっている日本の列車ボーイ・・・ 宮本百合子 「ニッポン三週間」
・・・――巨人が退屈まぎれに造ったのだというS山を正面に、それから左右に拡がって次第次第に高く立派になっている山並みに囲まれた盆地のところどころには、緑色をたっぷり含ませた刷毛をシュッ、シュッ、シュッと二三度で出来上ったような森や林が横たわってい・・・ 宮本百合子 「禰宜様宮田」
・・・どちらを向いても、高い山山ばかりに囲まれた盆地の山ひだの間から、蛙の声の立ちまよっている村里で、石油の釣りランプがどこの家の中にも一つずつ下っていた。牛がまた人と一つの家の中に棲んでいた。 私がランプの下の生活をしたのは、このときから三・・・ 横光利一 「洋灯」
・・・とすれば、タリム盆地は、アフガニスタンに次いで塑像を発達させた場所であったかもしれない。 麦積山は敦煌からはだいぶ遠い。ホタンから敦煌まで来れば、大体タリム盆地を西から東へ突っ切ったことになるが、その距離と敦煌から麦積山までの距離とは、・・・ 和辻哲郎 「麦積山塑像の示唆するもの」
出典:青空文庫