・・・おれたちは第一条の犯人を押えようと思って一日ここに居るんだぞ。早く黙って帰れ。って云った。」「じゃきっと間もなくつかまるねえ。」 ところがそれから半年ばかりたちますとまたこどもらが大さわぎです。「そいつはもうたしかなんだよ。僕の・・・ 宮沢賢治 「毒もみのすきな署長さん」
・・・真の犯人はナチスであるが、それを口実に共産党への大弾圧を加えるために、計画された陰謀であった。また反ナチ派の勢力の下にあったバイエルン州のミュンヘンでは、この報知をきいても、ナチの悪計とは知らず、エリカ・マンの胡椒小屋は謝肉祭の大陽気で、反・・・ 宮本百合子 「明日の知性」
・・・あなたの方のは犯人がつかまって書類が廻ったからいいが…… これで分った。一昨日食堂車へわたるデッキの扉のガラスが破れた時、何心なく、 ――誰がわったの?ときいた。すると、やっぱりこの若い、党員である車掌は珍しく不機嫌に、答えた。・・・ 宮本百合子 「新しきシベリアを横切る」
・・・ところでこの間馬場先を通っていたらかねて新聞で披露されていた犯人逮捕用ラジオ自動車が消防自動車のような勢でむこうから疾走して来た。通行人も珍しげにそれをよけて見送っていた。ふと私は民間自動車のラジオは許されていず、その設備のある新車体はセッ・・・ 宮本百合子 「或る心持よい夕方」
・・・と云う商売人になっただけでは足りない、人間として、凡人以上の感受性と洞察が要求される。頭がいる。強い心がいる。 種々な素人劇団が起るのは、「芝居道」以外の人間には時々我慢の出来ない玄人の臭味と浅薄さとを嫌うからである。併し、目指す方向は・・・ 宮本百合子 「印象」
・・・い言葉で第四年目の三・一五を記念し、ブルジョア・地主のひどい政府が、どんなに党員たちを苦しめるか、死ねがしに扱うか、いやいや現に党員の誰とかを警察のコンクリートの床になげつけて殺した事実をあげて、政治犯人即時釈放を要求しました。監獄の病舎は・・・ 宮本百合子 「共産党公判を傍聴して」
・・・林弁護人は弁論中、彼らは「あくまで重要犯人であるとして被告人相互の連絡を防止するという意味で、窓には板をはり、わずかの硝子戸しかすきまがなく、ほとんど日のめをみることができない。また、一切の書物は刑務所備えつけのものすらよむ自由を与えなかっ・・・ 宮本百合子 「それに偽りがないならば」
・・・十月四日、連合軍総司令部の指令によって、治安維持法の撤廃、政治犯人の釈放、言論、出版、集会の自由が命令された。十月十〔四〕日、宮本が網走刑務所から解放されて東京へ帰ってきた。府中刑務所の予防拘禁から解放された徳田球一その他の同志たち・・・ 宮本百合子 「年譜」
・・・時代と、時代によって動かされているその人の属す階級の歴史的な性質に発現の形は支配されているにしろ凡人以上の個性が日夜動いている。つよい電気の中心により弱いものが吸いつけられ、それに従属した形になるのは、家庭の生活の中では一層はっきりした事実・・・ 宮本百合子 「花のたより」
・・・しかし犯人も出なければそのダイナマイトというものが果して本当に爆発するものであったかなかったかさえ公表されなかった。記事は世間に不安なセンセーションをおこし反共の役を演じたままヤミに葬られた。その前後に十五歳になる少年数名が列車妨害で捕えら・・・ 宮本百合子 「犯人」
出典:青空文庫