・・・ 三「お澄さん……私は見事に強請ったね。――強請ったより強請だよ。いや、この時刻だから強盗の所業です。しかし難有い。」 と、枕だけ刎ねた寝床の前で、盆の上ながらその女中――お澄――に酌をしてもらって、怪しから・・・ 泉鏡花 「鷭狩」
・・・そう言って自分から語りだしたのは、近ごろ京の町に見た人形という珍妙なる強請が流行っているそうな、人形を使って因縁をつけるのだが、あれは文楽のからくりの仕掛けで口を動かし、また見たなと人形がもの言うのは腹話術とかいうものを用いていることがだん・・・ 織田作之助 「螢」
・・・そこで与一は赤沢宗益というものと相談して、この分では仕方がないから、高圧的強請的に、阿波の六郎澄元殿を取立てて家督にして終い、政元公を隠居にして魔法三昧でも何でもしてもらおう、と同盟し、与一はその主張を示して淀の城へ籠り、赤沢宗益は兵を率い・・・ 幸田露伴 「魔法修行者」
・・・で、何も責め立てられるでも無く、強請されるでも無いが、此男の前に居るに堪え無くなって、退こうとした。が、前に泣臥している召使を見ると、そこは女の忽然として憤怒になって、「コレ」と、小さい声ではあったが叱るように云った。「…………・・・ 幸田露伴 「雪たたき」
・・・然し此等の断定の当っていなかった事は、やがて僕等一同が銀座のカッフェーには全く出入しないようになってから、或日突然お民が僕の家へ上り込んで、金銭を強請した時の、其態度と申条とによって証明せられることになった。お民の態度は法律の心得がなくては・・・ 永井荷風 「申訳」
・・・この矛盾的な賃銀問題の落着を可能にしている根拠は、科学主義工業がどこまでも農村生活の現状を保守して、副業にとどめて置こうとしているところにひそんでいるのである。強請して小規模で分散的な副業に止めておこうとする理由は「集団作業の心理状態には被・・・ 宮本百合子 「新しい婦人の職場と任務」
・・・ おっぱらわれたなんて、私は『強請』に行ったんやあらへんよ、 たのんで出して御呉れ云うて来たんや。「いくら貴方ばかりそうやって力んだっておっぱらわれたに違いないんですよ、 私なら、眠ってたってそんな鈍痴な真似はするもんか。・・・ 宮本百合子 「栄蔵の死」
・・・中には随分曖昧な、家賃一ヵ年分を報酬として請求するとか、三月分を強請されて、家はどうにか見付かったが、その片をつけるに困ったとかいう噂が彼方此方にあった。私共も、自分で探していたのでは到底、何時になったら見付かるか、見当もつかないような有様・・・ 宮本百合子 「思い出すこと」
・・・ 八つになる弟が強請んで種を下してもらった□□(はやって置いた篠竹では足りなかったものと見えて、後の槇の梢まで這い上って、細い葉の間々に肉のうすい、なよなよした花が見えて居る。 槇と云う名からして中年の寛容な父親を思わせる様なのに、・・・ 宮本百合子 「後庭」
・・・英国で乞食は声を出して慈悲を強請することは許されぬ。与えられる親切に対して感謝を表すだけが許されるのだ。「有難う! もし私の仕事が貴君の一ペンスに価するならば!」 洗いざらしでも子供に着せる日曜着がある者がヴィクトリア公園に出て来て遊ん・・・ 宮本百合子 「ロンドン一九二九年」
出典:青空文庫