・・・木材を愛す日本人に比較し、その事業を完成したのは、所謂唐人達の手柄であろうか。長崎の市を、何等史的知識なく一巡した旅客の記憶にも確り印象されるのは、この水に配された石橋の異国的な美や古寺の壮重な石垣と繁った樹木との調和等ではあるまいか。長崎・・・ 宮本百合子 「長崎の一瞥」
唐の貞観のころだというから、西洋は七世紀の初め日本は年号というもののやっと出来かかったときである。閭丘胤という官吏がいたそうである。もっともそんな人はいなかったらしいと言う人もある。なぜかと言うと、閭は台州の主簿になってい・・・ 森鴎外 「寒山拾得」
魚玄機が人を殺して獄に下った。風説は忽ち長安人士の間に流伝せられて、一人として事の意表に出でたのに驚かぬものはなかった。 唐の代には道教が盛であった。それは道士等が王室の李姓であるのを奇貨として、老子を先祖だと言い做し・・・ 森鴎外 「魚玄機」
一 村では秋の収穫時が済んだ。夏から延ばされていた消防慰労会が、寺の本堂で催された。漸く一座に酒が廻った。 その時、突然一枚の唐紙が激しい音を立てて、内側へ倒れて来た。それと同時に、秋三と勘次の塊りは組み合ったまま本堂の中へ・・・ 横光利一 「南北」
出典:青空文庫