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・・・ぽんと若い人が、その人形をもろに倒すと、むこうで、ばったり、今度は、うつむけにまた寝ました。 驚きましたわ。藁を捻ったような人形でさえ、そんな業をするんだもの。……活きたものは、いざとなると、どんな事をしようも知れない、可恐いようね・・・
泉鏡花
「開扉一妖帖」
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・・・足許が棒のようになったので足掻きがつかずもろに倒れそうになっては、立ちなおって荒れる。容赦なく腹を締めつけ、遂に両腕も緊く白木綿の下に巻き込まれてしまった。幸雄は、今はハッ、ハッと息を吐きながら、鳥肌立って蒼い頬の上にぽろぽろ涙を流し始めた・・・
宮本百合子
「牡丹」