・・・ おじぎだけでは許されそうもないからお話をしてあげずばなるまいかな。 やれやれと。旅人はさっきまでB、Cが掛けて居た木の切り株に腰を下す。A、Bは後について、旅人をはさんで向い合った様にしゃがみ、Cは糸玉の落ちたのを・・・ 宮本百合子 「旅人(一幕)」
・・・ッとした躰やじいっとした瞳や、やたらに気味悪いほど赤い唇が信二の年と共に育って、その唇からジラジラした嫌な声が出ると千世子は自分の体がちぢまる様な気がして自分がこんな男でなくってよかったなあと思う心とやれやれと思うのが一緒に混た溜息をついた・・・ 宮本百合子 「千世子(二)」
・・・皆が行儀よくまた元の梁の巣に戻って行くと、お婆さんは、「やれやれ」と立ち上って、毎日の仕事にとりかかりました。仕事というのは、繍とりです。大きな眼鏡を赤鼻の先に掛け、布の張った枠に向うと、お婆さんは、飽きるの疲れるのということを知らず、夜ま・・・ 宮本百合子 「ようか月の晩」
・・・「やれやれ、餓鬼どもを片づけて身が軽うなった」と言って、宮崎の三郎は受け取った銭を懐に入れた。そして波止場の酒店にはいった。 ―――――――――――― 一抱えに余る柱を立て並べて造った大廈の奥深い広間に一間四方の・・・ 森鴎外 「山椒大夫」
・・・「抛り出せ。」「なぐれ。」「やれやれ。」 騒ぎの中に二人の塊りは腰高障子を蹴脱した。と、再びそこから高縁の上へ転がると、間もなく裸体の四つの足が、空間を蹴りつけ裏庭の赤万両の上へ落ち込んだ。葛と銀杏の小鉢が蹴り倒された。勘次・・・ 横光利一 「南北」
出典:青空文庫