・・・ 書中のおもむきは、過日絮談の折にお話したごとく某々氏等と瓢酒野蔬で春郊漫歩の半日を楽もうと好晴の日に出掛ける、貴居はすでに都外故その節お尋ねしてご誘引する、ご同行あるならかの物二三枚をお忘れないように、呵々、というまでであった。 ・・・ 幸田露伴 「野道」
・・・(さきに述べた誘因のためにのみ情死を図ったのではなしに、そのほかのくさぐさの事情がいりくんでいたことをお知らせしたくて、私は、以下、その夜の追憶を三枚にまとめて書きしるしたのであるが、しのびがたき困難に逢着し、いまはそっくり削除した。読者、・・・ 太宰治 「狂言の神」
・・・ピンポン大学の学生であるという矜持が、その不思議の現象の一誘因となって居るのである。伝統とは、自信の歴史であり、日々の自恃の堆積である。日本の誇りは、天皇である。日本文学の伝統は、天皇の御製に於いて最も根強い。 五七五調は、肉体化さ・・・ 太宰治 「古典竜頭蛇尾」
・・・招待、とは言っても、ほとんど命令に近いくらいに強硬な誘引である。否も応もなく、私は出席せざるを得なくなったのである。 けれども、野暮な私には、お茶の席などそんな風流の場所に出た経験は生れてから未だいちども無い。黄村先生は、そのような不粋・・・ 太宰治 「不審庵」
・・・これは映写機のモーターの唸音の中から格好な楽音だけをわれわれの耳に特有な抽出作用によって選び出し、そうして視覚から来る連想の誘引に応じてスクリーンの上に投射したものらしい。 最近にはまた上記のものとは種類のちがった珍しい錯覚を経験した。・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(4[#「4」はローマ数字、1-13-24])」
・・・それで、こういう種類のいわゆる科学小説は、たいていは科学者にはばからしく、素人には科学に対する重大な誤解の誘因ともなりうるのである。 これに反して科学者が科学者に固有な目で物象を見、そうして科学者に固有な考え方で物を考えたその考えの筋道・・・ 寺田寅彦 「科学と文学」
・・・ 第一に外国支部の前に控えている課題は、生産から労働者を文学に吸引することであり之と並んでプロレタリア文学の同伴者中から××的作家を誘引することである。」 前田河にしろ、葉山にしろ、日本プロレタリア文学史の上では或る役割を果した人々・・・ 宮本百合子 「ニッポン三週間」
出典:青空文庫