・・・の交際の公私に論なく、ややもすれば意の如くならざるは、原因のある所、一にして足らずといえども、我が男子が徳義上に軽侮を蒙るの一事は、その原因中の大箇条なるが故に、いやしくもこれに心付きたる者は、片時も猶予せずしてその過ちを改めざるべからず。・・・ 福沢諭吉 「日本男子論」
・・・また或は各地の固有に有余不足あらんには互にこれを交易するも可なり。すなわち天与の恩恵にして、耕して食い、製造して用い、交易して便利を達す。人生の所望この外にあるべからず。なんぞ必ずしも区々たる人為の国を分て人為の境界を定むることを須いんや。・・・ 福沢諭吉 「瘠我慢の説」
・・・ 世間の輿論は、不幸な母親由紀子さんに同情を示し、結局、東京検事局は起訴猶予とした。そして、忙しくて乏しい歳末の喧騒にまぎれて、この事件は忘れられ、今日、私たちは、その事件のおこった当日と大して変りない暴力的交通状態の下に暮しているので・・・ 宮本百合子 「石を投ぐるもの」
・・・あれにはただ身許引受人があったから執行猶予にしたとあります。身許引受人というものと、その充子さんという人との関係がわかっていないし、夫とその人との関係がわかっていません。ああいう生活過程をもっている女の人の場合には、ひとくちに身許引受人とい・・・ 宮本百合子 「浦和充子の事件に関して」
・・・この課税の方法によると大財産の所有者たちは、とり上げられる税をこの情勢推移の急な時代に四年間支払猶予され、事実上支払わないでもすんでしまいそうな上、出しただけの金は形を変え口実を新しくして堂々めぐりでまた元の懐に戻って来る仕組みになっている・・・ 宮本百合子 「女の手帖」
・・・文化を動員する方法は大きい変化を示しているにかかわらず、戦場文学ともいうべき火野の諸作が、本質的には桜井忠温の現実の反映のし方から決して三十有余年の人間知性の深化を語っていないというのは、如何なる理由によるのだろう。 文学としてはこれら・・・ 宮本百合子 「昭和の十四年間」
・・・そうでなければ労働者同意の上、或る場合は次の職業が見付かるまで、猶予してやらなければいけない。 女は尚更で、例えば、姙娠しているものは五ヵ月以上は解雇してはいかぬ。それから乳飲児をもって一年以内のものは最後まで解雇しない。また年寄には養・・・ 宮本百合子 「ソヴェト・ロシアの素顔」
・・・ もう一刻の猶予もされない。 水を吐かせ、暖め摩擦し、そのときそこで出来るだけの手当がほどこされたのである。 ここいらの百姓などとは身分の違う人と見えて、労働などは思ってみたこともなさそうな体をしている。自分が裸体だなどというこ・・・ 宮本百合子 「禰宜様宮田」
・・・公判、懲役〔二〕年、執行猶予〔四〕年を言い渡された。予審と公判とを通じて私は文学の階級性を主張することができなかった。七月。保護観察所によって保護観察に附せられた。警視庁の特高課長であった毛利基が主事をしていた。毛利基は宮本の関係した党・・・ 宮本百合子 「年譜」
・・・云ってみれば、芭蕉の芸術などというものは爾来二百五十有余年、その道の人々によって研究されつづけて来ているようなものである。芭蕉の美の原理としての「こころ」「不易流行」「さび・しおり・ほそみ」等は精密を極めた考証とともにしらべられて、それぞれ・・・ 宮本百合子 「芭蕉について」
出典:青空文庫