・・・「よいしょ。」「よい来た。」「よいしょ。」「よい来た。」 宗保は、ねそを掴んで提げて来る薪を一把一把積み重ねて行った。西山は、下駄をはいていた。五十把ほど運んだ頃、プスリとその鼻緒を切ってしまった。跛を引きだした。細長い・・・ 黒島伝治 「鍬と鎌の五月」
・・・私は、小説というものを、思いちがいしているのかも知れない。よいしょ、と小さい声で言ってみて、路のまんなかの水たまりを飛び越す。水たまりには秋の青空が写って、白い雲がゆるやかに流れている。水たまり、きれいだなあと思う。ほっと重荷がおりて笑いた・・・ 太宰治 「鴎」
・・・蒲団を持ち上げるとき、よいしょ、と掛声して、はっと思った。私は、いままで、自分が、よいしょなんて、げびた言葉を言い出す女だとは、思ってなかった。よいしょ、なんて、お婆さんの掛声みたいで、いやらしい。どうして、こんな掛声を発したのだろう。私の・・・ 太宰治 「女生徒」
・・・われわれは一先土間へ下した書物の包をば、よいしょと覚えず声を掛けて畳の方へと引摺り上げるまで番頭はだまって知らぬ顔をしている。引摺り上げる時風呂敷の間から、その結目を解くにも及ばず、書物が五、六冊畳の上へくずれ出したので、わたしは無造作に、・・・ 永井荷風 「梅雨晴」
・・・さあひっぱって呉れ。よいしょ。」 宮沢賢治 「カイロ団長」
・・・ そして、みんなは、「よいしょ。よいしょ。」と云いながら包みを、荷馬車へのせました。「さあ、よし、行こう。」 馬はプルルルと鼻を一つ鳴らして、青い青い向うの野原の方へ、歩き出しました。・・・ 宮沢賢治 「気のいい火山弾」
出典:青空文庫