・・・八万法蔵十二部経中の悪鬼羅刹の名前ばかり、矢つぎ早に浴びせたのじゃ。が、船は見る見る遠ざかってしまう。あの女はやはり泣き伏したままじゃ。おれは浜べにじだんだを踏みながら、返せ返せと手招ぎをした。」 御主人の御腹立ちにも関らず、わたしは御・・・ 芥川竜之介 「俊寛」
・・・ 小町 あなたは鬼です。羅刹です。わたしが死ねば少将も死にます。少将の胤の子供も死にます。三人ともみんな死んでしまいます。いえ、そればかりではありません。年とったわたしの父や母もきっと一しょに死んでしまいます。わたしは黄泉の使でも、もう・・・ 芥川竜之介 「二人小町」
・・・……はたで見ます唯今の、美女でもって夜叉羅刹のような奥方様のお姿は、老耄の目には天人、女神をそのままに、尊く美しく拝まれました。はい、この疼痛のござりますうちだけは、骨も筋も柔かに、血も二十代に若返って、楽しく、嬉しく、日を送るでござりまし・・・ 泉鏡花 「山吹」
・・・た女どもの首々……おやじの首……憎い友人どもの首……鬼女や滝夜叉の首……こんな物が順ぐりに、あお向けに寝て覚めている室の周囲の鴨居のあたりをめぐって、吐く息さえも苦しくまた頼もしかった時だ――「鬼よ、羅刹よ、夜叉の首よ、われを夜伽の霊の影か・・・ 岩野泡鳴 「耽溺」
出典:青空文庫