・・・しかるに学殖の富衍なる、老師宿儒もいまだ及ぶに易からざるところのものあり。まことに畏敬すべきなり。およそ人の文辞に序する者、心誠これを善め、また必ず揚※をなすべきあり。しからずんば、いたずらに筆を援りて賛美の語をのべ、もって責めを塞ぐ。輓近・・・ 中江兆民 「将来の日本」
・・・ 老師に会うのは約二十年ぶりである。東京からわざわざ会いに来た自分には、老師の顔を見るや否や、席に着かぬ前から、すぐそれと解ったが先方では自分を全く忘れていた。私はと云って挨拶をした時老師はいやまるで御見逸れ申しましたと、改めて久濶を叙・・・ 夏目漱石 「初秋の一日」
・・・ こう云う風に、幾晩となく母が気を揉んで、夜の目も寝ずに心配していた父は、とくの昔に浪士のために殺されていたのである。 こんな悲い話を、夢の中で母から聞いた。第十夜 庄太郎が女に攫われてから七日目の晩にふらりと帰って・・・ 夏目漱石 「夢十夜」
・・・ いま作品の名をおもい出せませんが赤穂義士の仇討に対してそれを唯封建的な忠義の行為と見ず、浪士たちの経済的事情やその他の現実的いきさつを主眼として扱ったものもあったようです。 これから森田氏がどういう作品をかかれるか知らないけれども・・・ 宮本百合子 「心から送る拍手」
・・・ブックマン運動とよばれるようになっていたこの運動がアメリカで勢力を得てきたのは、第二次大戦中、ぬけめのないブックマン博士がこの運動を宗教問題から社会運動にきりかえて、労資協調を主張しはじめてからのことである。ブックマン博士は、一九三九年には・・・ 宮本百合子 「再武装するのはなにか」
・・・とか「平和のために労資協調を致しましょう」とかいうものです。現代の戦争が資本主義そのものの病弊であるとき、その原因が合理的にとりのぞかれないで、どうして本当の平和があり得ましょう。もうだれでも、これまでのままの資本主義の社会では人民の幸福が・・・ 宮本百合子 「求め得られる幸福」
・・・ 欧州の大戦と婦人の職業戦線の拡大、労資の問題の擡頭、民衆の階級としての自覚、その解放のための運動は、日本でも恋愛と結婚との実際に大きい影響と変化とを与えた。ソヴェト連邦は新しい社会の機構によって、婦人の性を妻、母として保護しつつ、社会・・・ 宮本百合子 「若き世代への恋愛論」
出典:青空文庫