・・・ 斯う云って、彼は張合い抜けのした気持で警官と別れて、それから細民窟附近を二三時間も歩き廻った。そしてよう/\恰好な家を見つけて、僅かばかしの手附金を置いて、晩に引越して来るということにして帰って来た。がやっぱし細君からの為替が来てなか・・・ 葛西善蔵 「子をつれて」
・・・泣きそうになって少女は別れた。そして永遠に。 ――二人は離ればなれの町に住むようになり、離ればなれに結婚した。――年老いても二人はその日の雪滑りを忘れなかった。―― それは行一が文学をやっている友人から聞いた話だった。「まあいい・・・ 梶井基次郎 「雪後」
・・・ とその女を見返したのであるが、そのとき吉田の感じていたことはたぶんこの女は人違いでもしているのだろうということで、そういう往来のよくある出来事がたいてい好意的な印象で物分かれになるように、このときも吉田はどちらかと言えば好意的な気持を・・・ 梶井基次郎 「のんきな患者」
・・・ それから樋口の話ばかりでなく、木村の事なども話題にのぼり、夜の十一時ごろまでおもしろく話して別れましたが、私は帰路に木村の事を思い出して、なつかしくなってたまりませんでした、どうして彼はいるだろう、どうかして会ってみたいものだ、たれに・・・ 国木田独歩 「あの時分」
・・・ 一分間で言える、僕と或少女と乙な中になった、二人は無我夢中で面白い月日を送った、三月目に女が欠伸一つした、二人は分れた、これだけサ。要するに誰の恋でもこれが大切だよ、女という動物は三月たつと十人が十人、飽きて了う、夫婦なら仕方がないから結・・・ 国木田独歩 「牛肉と馬鈴薯」
・・・ 爪先あがりの小径を斜めに、山の尾を横ぎって登ると、登りつめたところがつの字崎の背の一部になっていて左右が海である、それよりこの小径が二つに分かれて一は崎の背を通してその極端に至り一は山のむこうに下りてなの字浦に出る。この三派の路の集ま・・・ 国木田独歩 「鹿狩り」
・・・そして夫婦別れごとに金のからんだ訴訟沙汰になるのは、われわれ東洋人にはどうも醜い気がする。何故ならそれだと夫婦生活の黄金時代にあったときにも、その誓いも、愛撫も、ささやきも、結局そんな背景のものだったのかと思えるからだ。 権利思想の発達・・・ 倉田百三 「愛の問題(夫婦愛)」
・・・ そして、少し行くと、それから自分の家へ分れ分れに散らばってしまった。 二 山が、低くなだらかに傾斜して、二つの丘に分れ、やがて、草原に連って、広く、遠くへ展開している。 兵営は、その二つの丘の峡間にあった。・・・ 黒島伝治 「渦巻ける烏の群」
・・・それがまだ分っていない。 俺達は、何故貧乏するか。 どうすれば、俺達は、貧乏から解放されるか。 この二つを百姓に十分了解させることが、なによりも必要だ。それが分れば、彼等は誰れに一票を投ずべきかを、ひとりでゞ自覚するのである。・・・ 黒島伝治 「選挙漫談」
・・・ 呼出されるのを待つため、練兵場に並んだ時、送って来た者は入営する者の傍に来ることが出来ないので親爺と別れた。それから、私がこちらの中隊へ来ることを、親爺に云うひまがなかった。各中隊へ分れて行く者の群が雑沓していた。送って来た者は、どち・・・ 黒島伝治 「入営前後」
出典:青空文庫