・・・しかし自分の見るところではこれらの伝説は自然科学的の立場から見ればほとんど無価値なものであり、またアイヌ語による解釈も部分的には正しいかもしれないが到底全部が正しくないことは、人によって説の違う事実からでも説明される。 それで唯一の科学・・・ 寺田寅彦 「火山の名について」
・・・かなで書くとみんなハ行とラ行と結びついている点に興味がある。アイヌ語の春「パイカラ」はだいぶちがうが、しかしpをbに、kをhに代えるとおのずからペルシアの春に接近する。この置き換えは無理ではない。「張る」「ふえる」「腫るる」などもhまた・・・ 寺田寅彦 「言葉の不思議」
・・・ 定山渓も登別もどこも見ず、アイヌにも熊にも逢わないで帰って来た。函館から札幌までは赤あかえいの尻尾の部分に過ぎないが、これだけ行ったので北海道の本当の大きさがいくらか正しく頭の中で現実化されたように思う。この広大な土地に住む全体の人口・・・ 寺田寅彦 「札幌まで」
・・・ 先住アイヌが日本の大部に住んでいたころにたとえば大正十二年の関東大震か、今度の九月二十一日のような台風が襲来したと想像してみる。彼らの宗教的畏怖の念はわれわれの想像以上に強烈であったであろうが、彼らの受けた物質的損害は些細なものであっ・・・ 寺田寅彦 「天災と国防」
・・・ こういう立場からすれば例えば土佐の地名を現在あるいは過去の日本語で説明しようとするよりは、むしろこれらの地名とアイヌ、朝鮮、支那、前インド、マレイ、ポリネシア等の現在語との関係を捜す方が有意義である。 こういう研究は既にその方の専・・・ 寺田寅彦 「土佐の地名」
・・・そこで本邦地名の問題に触れるとなれば、自然の勢いで、アイヌ語や朝鮮語による地名起原説を参照しなければならぬ事になる。そうなると問題は自然自然に推移して結局は日本語の成立問題にまでも多少は触れないわけには行かなくなるのである。 そうかと言・・・ 寺田寅彦 「比較言語学における統計的研究法の可能性について」
・・・津軽海峡、トラピスト、函館、五稜郭、えぞ富士、白樺、小樽、札幌の大学、麦酒会社、博物館、デンマーク人の農場、苫小牧、白老のアイヌ部落、室蘭、ああ僕は数えただけで胸が踊る。五時間目には菊池先生がうちへ宛てた手紙を渡して、またいろいろ話され・・・ 宮沢賢治 「或る農学生の日誌」
・・・一九一八年ごろ日本におけるアイヌ民族の歴史的な悲劇に関心をひかれその春から秋急にアメリカへ立つまで北海道のアイヌ部落をめぐり暮した作者にとって公然と行われた朝鮮人虐殺は震撼的衝撃であった。亀戸事件、大杉事件どれ一つとっても権力の野蛮と惨虐が・・・ 宮本百合子 「あとがき(『宮本百合子選集』第二巻)」
・・・民族は互に関係しあい、入りまじりあって発展して来るのであって、日本のような狭い土地の上でさえも、海という自由な広い道を通って、人類的にはアイヌ、ツングウス、インド支那、漢人、ネグリート、インドネシアなどがまじりあった民族が今日日本人として栄・・・ 宮本百合子 「今日の文化の諸問題」
アイヌの部落も内地人の影響を受けて、純粋のアイヌの風俗はなくなって行きますが、日高国の平取あたりに行ってみると、純粋のアイヌの気分を味う事が出来ます。然し単にアイヌと申しても、北海道全体に渡っての彼等の部落には、各々に特色・・・ 宮本百合子 「親しく見聞したアイヌの生活」
出典:青空文庫