・・・ コリント風の柱、ゴシック風の穹窿、アラビアじみた市松模様の床、セセッションまがいの祈祷机、――こういうものの作っている調和は妙に野蛮な美を具えていました。しかし僕の目をひいたのは何よりも両側の龕の中にある大理石の半身像です。僕は何かそ・・・ 芥川竜之介 「河童」
・・・は、十六世紀の初期に当って、ファディラの率いるアラビアの騎兵が、エルヴァンの市を陥れた時に、その陣中に現れて、Allah akubarの祈祷を、ファディラと共にしたと云う事が書いてある。すでに彼は、「東方」にさえ、その足跡を止めている。大名・・・ 芥川竜之介 「さまよえる猶太人」
・・・イタリアの柘榴か、イスパニアの真桑瓜か、それともずっと遠いアラビアの無花果か?主人 御土産ならば何でも結構です。まあ飛んで見せて下さい。王子 では飛ぶぞ。一、二、三!王子は勢好く飛び上る。が、戸口へも届かない内に、どたりと尻・・・ 芥川竜之介 「三つの宝」
・・・「お前達は並んでアラビア兵のようだ」「そや、バグダッドの祭のようだ」「腹が第一滅っていたんだな」 ずらっと並んだ洋酒の壜を見ながら自分は少し麦酒の酔いを覚えていた。 三 ライオンを出てからは唐物屋で石・・・ 梶井基次郎 「泥濘」
・・・それには、アルファベットとアラビア数字がきれぎれに、一字一字、全部で三十字ほど折れ釘のように並んでいた。クヅネツォフは、対岸の、北の村に住んでいる富農だ。パン粉を買い占めたり、チーズを買い占めたり、そして、それを労働者に高くで売りつける。そ・・・ 黒島伝治 「国境」
・・・熱帯の白日に照らされた道路のはるか向こうから兵隊のラッパと太鼓が聞こえて来る。アラビア人の馬方が道のまん中に突っ立った驢馬をひき寄せようとするがなかなかいこじに言うことを聞かない。馬方はとうとう自分ですべって引っくりかえって白いほこりがぱっ・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(1[#「1」はローマ数字、1-13-21])」
・・・ホテルの一室で人が対話していると、窓越しに見える遠見の屋上でアラビア人のアルラーにささげる祈りの歌が聞こえる。すると平凡な一室が突然テヘランの町の一角に飛んで行く。こういう効果はおそらく音響によってのみ得られるべきものである。探偵が来て「可・・・ 寺田寅彦 「映画時代」
・・・あるいはヘブリウの ‘Esh‘as´en‘as´anなどが示唆され、これと関係あるアラビアの ‘atanaから西のほうへたぐって行ってイタリアの Etna 火山を思わせ、さらに翻ってわが国の Iduna を思わせる。しからばこれはセミティク・・・ 寺田寅彦 「火山の名について」
・・・そこで、grの代わりにgdを取ってみると、アラビアの動詞 ghadibaの中に見いだされる。この最後の ba は時によりただのbによって響きを失うことはあるのである。 名古屋へんの言葉で怒ることをグザルというそうであるが、マレイでは g・・・ 寺田寅彦 「言葉の不思議」
・・・と読んで年齢を意味する。アラビア語でも sinn というのは歯を意味しまた年齢をも意味する。「シ」と「シン」と音の似ているのも妙である。とにかく歯は各個人にとってはそれぞれ年齢をはかる一つの尺度にはなるが、この尺度は同じく年を計る他の尺度と・・・ 寺田寅彦 「自由画稿」
出典:青空文庫