出版にインフレーションという流行ことばが結びつけて云われたことは、おそらく明治以来例のないことだったのではなかろうか。ところがこの一二年来は、インフレ出版という言葉が出来た。そしてこの言葉は、本がびっくりするほど売れるとい・・・ 宮本百合子 「日本文化のために」
・・・この年は戦争の進行につれて軍需生産を中心とする日本経済の「軍需インフレ」の無責任な活況が起った。インフレ出版、インフレ作家というよび名さえ起った。しかし文学の実質は低下の一線をたどった。戦争遂行目的のために作家と文学の動員されることはますま・・・ 宮本百合子 「年譜」
・・・ 外部の条件として、インフレ出版と呼ばれるような出版の活況があって、一面ではその乱暴な出版洪水のために、文学は荒らされているのも現実である。婦人作家の文学業績も無責任に商品化されてゆく危険があるのだが、めいめいの心がけによっては、こうい・・・ 宮本百合子 「拡がる視野」
・・・ 永井荷風によって出発したジャーナリズムは、インフレーションの高波をくぐって生存を争うけわしさから、織田作之助、舟橋聖一、田村泰次郎、井上友一郎、その他のいわゆる肉体派の文学を繁栄させはじめた。池田みち子が婦人の肉体派の作家として登場し・・・ 宮本百合子 「婦人作家」
・・・ 六七年前、インフレーションがはじまって、それはまだ軍需インフレと呼ばれていた頃、書籍とインフレーションの関係で、新しい插話が生れた。その中に、インフレーションで急に金まわりのよくなった若い職工さんが、紀伊国屋書店にあらわれて、百円札を・・・ 宮本百合子 「文化生産者としての自覚」
・・・ 一二年このかた、出版にもインフレ景気ということが云われるようになった。文学書の翻訳も溢れているが、果してそのうちの幾割が、文学的な再現の成功までは言わず、少くとも信頼に足りる仕事なのだろうか。 訳しにくいところはどしどしとばし・・・ 宮本百合子 「翻訳の価値」
出典:青空文庫