・・・好んで犠牲になったのです。エゴイストです。 ――もう一つお伺いします。あなたは、どちらの死を望みましたか? あなたは、隠れて見ていましたね。旅行していたというのは嘘ですね。あの前夜も、女学生の下宿に訪ねて行きましたね。あなたは、どちらの・・・ 太宰治 「女の決闘」
・・・君みたいなエゴイストじゃないんだ。」「いや、いや。」私は佐伯に、いい人と言われて狼狽した。「僕だって、エゴイストです。佐伯君がいやだというのを僕が無理を言って、ここへ連れて来てもらったのですから。事情を申し上げてもいいんだけど、とにかく・・・ 太宰治 「乞食学生」
・・・貴族はエゴイストだ、という動かぬ結論でございます。いいえ、なんにもおっしゃいますな。やっぱり、ご自分おひとりのことしか考えて居りませぬ。ご自分おひとりの恰好のためにのみ、死ぬるばかり苦しんで居ります。ご存じでございましょうけれど、私の枕元に・・・ 太宰治 「古典風」
・・・趣味でキリストごっこなんかに、ふけっていやがって、鼻持ちならない深刻ぶった臭い言葉ばかり並べて、そうして本当は、ただちょっと気取ったエゴイストじゃないか。」などと言われる事の恥ずかしさに、私は、どんなに切迫した自分の仕事があっても、立って学・・・ 太宰治 「新郎」
・・・弱いものいじめ。エゴイスト。腕力は強そうである。年とってからの写真を見たら、何のことはない植木屋のおやじだ。腹掛丼がよく似合うだろう。 私の「犯人」という小説について、「あれは読んだ。あれはひどいな。あれは初めから落ちが判ってるんだ。こ・・・ 太宰治 「如是我聞」
・・・僕は、いまでは、エゴイストです。いつのまにやら、そうなって来ました。菊代の事は、菊代自身が処理するでしょう。僕たち二十代の者は、或る点では、あなたたちよりもずっと大人かも知れません。自己に就いての空想は、少しも持っていません。それは、ど・・・ 太宰治 「春の枯葉」
・・・の時のあの氷が、ここのこの泥水の壕の中から切り出されて、そうして何百里の海を越えて遠く南海の浜まで送られたものであったのかと思うと、この方が中学校の歴史で教わった五稜郭の戦いに関する感慨よりも更に深くエゴイストの心に触れるものがある。これは・・・ 寺田寅彦 「札幌まで」
・・・ しかし自分の中にいる極端なエゴイストに言わせれば、自分にとっては先生が俳句がうまかろうが、まずかろうが、英文学に通じていようがいまいが、そんな事はどうでもよかった。いわんや先生が大文豪になろうがなるまいが、そんなことは問題にも何もなら・・・ 寺田寅彦 「夏目漱石先生の追憶」
・・・昔も今もこうしたわがままなエゴイストの心理は同様だと見える。 しかし、一方ではまた、反対に両側に人がいないとさびしく物足りないという人もかなりあるようである。 群集を好む動物があり一方にはまた孤独を楽しむ動物があるかと思うと、また一・・・ 寺田寅彦 「破片」
・・・「貴方は本当のエゴイストよ。御存じ? 私又れんに迄云い訳しなけりゃあならないなんて……。もう沢山よ。あんなこと」 彼は、ちらりとさほ子を見上げ、やれやれと云う風に頭を振った。そして、脚を毛布でくるみなおした。 さほ子は、時々足を・・・ 宮本百合子 「或る日」
出典:青空文庫