・・・富は有利化されたるエネルギーであります。しかしてエネルギーは太陽の光線にもあります。海の波濤にもあります。吹く風にもあります。噴火する火山にもあります。もしこれを利用するを得ますればこれらはみなことごとく富源であります。かならずしも英国のご・・・ 内村鑑三 「デンマルク国の話」
・・・だから夜更けて湯へゆくことはその抵抗だけのエネルギーを余分に持って行かなければならないといつも考えていた。またそう考えることは定まらない不安定な、埓のない恐怖にある限界を与えることになるのであった。しかしそうやって毎夜おそく湯へ下りてゆくの・・・ 梶井基次郎 「温泉」
・・・仕事には非常の根気とエネルギーが要る。身体が丈夫ならば丈夫なだけいい。芸術上の仕事には種々な経験が豊かなほどいいのだが、身体が弱ければ生活が狭くなる。少なくともかなりな程度の健康を保つことを常に心掛けなくてはならない。それには、一、・・・ 倉田百三 「芸術上の心得」
・・・また他の人と石炭のエネルギーの問題を論じている中に、「仮りに同一量の石炭から得られるエネルギーがずっと増したとすれば、現在より多数の人間が生存し得られるかもしれないが、そうなったとした場合に、それがために人類の幸福が増すかどうかそれは疑問で・・・ 寺田寅彦 「アインシュタイン」
・・・機械文化の頂点を示すべき映画の中で、一人の職工は有り余っているべき動力の洪水の中にいながら、最も原始的なその筋肉エネルギーを極度に消費して大きなダイアルの針を回し、そうして、疲れ切って倒れ、そのために大破壊が起こったりする。あの魯鈍な機械に・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(1[#「1」はローマ数字、1-13-21])」
・・・ベーアはできるだけエネルギーを節約し貯蓄しておいて、稀有な有利の瞬間をねらいすまして一ぺんに有りったけの力を集注するという作戦計画と見られた。十回目あたりからベーアのつけていた注文の時機が到来したと見えて猛烈をきわめた連発的打撃に今までたく・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(3[#「3」はローマ数字、1-13-23])」
・・・いかなる振り子の運動でも若干のエネルギーの消耗がある限りその運動は必ず減衰して行くはずである。それが時を逆転した映画の世界では反対に、静止した振り子がだんだん揺れ出し次第に増幅するのである。もっと一般に言えば宇宙のエントロピーが次第に減少し・・・ 寺田寅彦 「映画の世界像」
・・・それはとにかくとして小説家が架空の人物を描き出してそれら相互の間に起こる事件の発展推移を脚色している時の心の作用と、科学者が物質とエネルギーを抽象して来てその間に起こるべき現象の径路を演繹している時のそれとはよほど似たものであるように思われ・・・ 寺田寅彦 「科学者と芸術家」
・・・ エネルギー保存説の開祖ロベルト・マイヤーは、当時の物理の世界から見ればむしろ旋毛曲りの頑固な田舎親爺であったに相違無い。 寺田寅彦 「科学上における権威の価値と弊害」
・・・たとえば大砲の砲腔をくり抜くときに熱を生ずることから熱と器械的のエネルギーとの関係が疑われてから以来、初めはフラスコの水を根気よく振っていると少し温まるといったような実験から、進んで熱の器械的当量が数量的に設定されるまで、それからまた同じよ・・・ 寺田寅彦 「科学と文学」
出典:青空文庫