・・・少なくもアメリカの百万長者がアルプスの空気と光線に健康とエネルギーを求めて歩く間に、多くの日本人の観光客はそのほかにおまけとして山水の美の中から日本人らしい詩を拾って歩くであろう。そうして、もう一つのおみやげには思い思いのカメラの目にアルプ・・・ 寺田寅彦 「カメラをさげて」
・・・外の各種の舞踊に表われるような動的エネルギーの表出はなくて、すべてが静的な線と形の律動であるように思われた。 二番目の「地久」というのは、やはり四人で舞うのだが、この舞の舞人の着けている仮面の顔がよほど妙なものである。ちょっと恵比寿に似・・・ 寺田寅彦 「雑記(1[#「1」はローマ数字、1-13-21])」
・・・ こんな事を考えていたのであるが、今年の夏房州の千倉へ行って、海岸の強い輻射のエネルギーに充たされた空間の中を縫うて来る涼風に接したときに、暑さと涼しさとは互いに排他的な感覚ではなくて共存的な感覚であることに始めて気が付いたのである。暑・・・ 寺田寅彦 「さまよえるユダヤ人の手記より」
・・・ある時颱風の話からそのエネルギーの莫大なこと、それをどうにかして人間に有益なように利用するようにしたいというようなことを話したら、大変にそれを面白がった。暴風の害を避けようというのでなくて積極的にそれを利用するというのは愉快だと云って喜んで・・・ 寺田寅彦 「子規の追憶」
・・・の場合でも、それはいろいろの週期のものがたくさんに合成された結果と見なすことができるし、その多くの「週期のスペクトラ」のエネルギー分布の統計的形式によって、いろいろな不規律放射像の不規則さの様式特性が定まると考えられる、言わば規則正しい像は・・・ 寺田寅彦 「自然界の縞模様」
・・・これはこれらの物質がその周囲の空気と光学的密度を異にしているためにその境界面で光線を反射し屈折するからであって、たとえその物質中を通過する間に光のエネルギーが少しも吸収されず、すなわち完全に「透明」であっても立派に明白に顕著に「見える」こと・・・ 寺田寅彦 「自由画稿」
・・・ 毎回の爆発でも単にその全エネルギーに差等があるばかりでなく、その爆発の型にもかなりいろいろな差別があるらしい。しかしそれが新聞に限らず世人の言葉ではみんなただの「爆発」になってしまう。言葉というものは全く調法なものであるがまた一方から・・・ 寺田寅彦 「小爆発二件」
・・・ことばにつくせない犠牲をはらったドイツの民主主義のために、エリカ・マンの美しいエネルギーは、まだまだ休む暇はあたえられていないのである。 ふかい犠牲をはらった民主主義への道と書かれている内山氏の紹介の文章をよむとき、私たちの魂にひびく共・・・ 宮本百合子 「明日の知性」
・・・クロッキーにおいて細部は追究されず、しかし流動する物体のエネルギーそのものの把握が試みられる。次の瞬間もうそこにはないその瞬間の腕の曲線、頸の筋骨の隆起、跳躍の姿がとらえられる。だが、そのうちに、ダイナミックに自然法則はとらえられる。「風知・・・ 宮本百合子 「解説(『風知草』)」
・・・或はヨーロッパ文明にあきた女性に対して、より原始的生物のエネルギーにみちたメキシコ土人の男が出現する。 わたしたちは、ここにD・H・ローレンスという作家の秘密の母斑を見る。彼は、人間性の課題としての性の解放を、上流の男女の冷淡で偽善的な・・・ 宮本百合子 「傷だらけの足」
出典:青空文庫