・・・テーブルの上には、カーネーションや、リリーや、らんの花などが盛られて、それらの草花の香気も混じって、なんともいえない、ちょうど南国の花園にいったときのような感じをさせるのであります。 私は、いろいろの人たちの旅行の話や、芝居の話や、音楽・・・ 小川未明 「煙突と柳」
・・・或る晩、私とふたりで、その喫茶店へ行き、コーヒー一ぱい飲んで、やっぱり旗色がわるく、そのまま、すっと帰って、その帰途、兄は、花屋へ寄ってカーネーションと薔薇とを組合せた十円ちかくの大きな花束をこしらえさせ、それを抱えて花屋から出て、何だかも・・・ 太宰治 「兄たち」
・・・胸の真紅のカーネーションも目立つ。「つくる」ということが、無かったら、もっともっとこの先生すきなのだけれど。あまりにポオズをつけすぎる。どこか、無理がある。あれじゃあ疲れることだろう。性格も、どこか難解なところがある。わからないところをたく・・・ 太宰治 「女生徒」
・・・やはり人造でもマーブルか、乳色ガラスのテーブルの上に銀器が光っていて、一輪のカーネーションでもにおっていて、そうしてビュッフェにも銀とガラスが星空のようにきらめき、夏なら電扇が頭上にうなり、冬ならストーヴがほのかにほてっていなければ正常のコ・・・ 寺田寅彦 「コーヒー哲学序説」
・・・…… 植物園では仏桑花、ベコニア、ダリア、カーネーション、それにつつじが満開であった。暑くて白シャツの胸板のうしろを汗の流れるのが気持ちが悪かった。両手を見るとまっかになって指が急に肥ったように感じられた。 ケーブルカーの車掌は何を・・・ 寺田寅彦 「旅日記から(明治四十二年)」
・・・しおれた白百合やカーネーションが流しの隅に捨ててある。百合の匂。カーネーションの匂。洗濯する人。お化粧する人。 小使が流しの上へ上がって、長い棒を押し立てて、何かゴボゴボ音を立てている。棒の先にゴムの椀のようなものが取付けてある。この椀・・・ 寺田寅彦 「病院風景」
・・・桃色のカーネーション、アスパラガス、紅毬薔薇。朝日のさす往来でパラフィン紙を透きとおす活々した花の色が、教師をひきつけた。彼は、みのえの方へ黒い詰襟服のカフスをのばし、「それ、お呉れ」と云った。驚いて、みのえは花束を後にかくした。・・・ 宮本百合子 「未開な風景」
○温室の石井を呼びつける、 m 真中、右 石井、左 石井 草の工合をきいているが 妙にからんで「昨日よそへ行きましたら、カーネーションがのでんですっかりよく育って居りましたよ さし木をしてねエ、あれは温室でなくて・・・ 宮本百合子 「無題(九)」
出典:青空文庫