・・・その晩、あなたに、強くなってもらいたく、あなたの純潔信じて居るものの在ることお知らせしたく、あなたに自信もって生きてもらいたくて、ただ、それだけの理由で、おたよりしようと、インク瓶のキルクのくち抜いて、つまずいた。福田蘭童、あの人、こんな手・・・ 太宰治 「二十世紀旗手」
・・・三鞭酒のキルクのはぜる音。ピリニャークが自分たちに訊いた。「何をたべましょうか?」 はじめて自分は「作家の家」の内部を見たのだから、おどろいた。それから腹が立って来た。これがソヴェトの作家たちのやっていることか? ブルジョア国のカフェー・・・ 宮本百合子 「ソヴェト文壇の現状」
・・・私の足の下には靴の皮がある。キルクの床がある。石とコンクリートの下には、アメリカの土がある。けれども、けれども、私には、小さい島国の、黒い柔かい、水気豊かな春の土が、足の素肌に感じられる。抜けようとしても、抜けられない泥濘の苦しさと混乱を、・・・ 宮本百合子 「無題」
出典:青空文庫