・・・「闇屋が持って来るんだが、ない時はサッカリンを使う」「煙草に砂糖、高いものばかしだ。少し贅沢じゃないかな」「いや、贅沢といえば贅沢だが、しかしこりゃ僕の必需品なのだよ。珈琲はともかく、煙草がないと、一行も書けないんだからね。その・・・ 織田作之助 「鬼」
・・・ズルチンはサッカリンより甘いが、脳に悪影響があるからやめろと、最近友人の医者から聴いていた。「――誰だか忘れたが、たぶん返しに来た筈だ。押入の中にはいっていないか」「さア」と、それでも押入の戸は明けて、「――今いるんですの?」・・・ 織田作之助 「世相」
・・・ そのきんとんには、サッカリンが多分に入っていることを、私は知っていた。その上、猫入らずまで混ぜてあったのだが、兎に角私は、滅茶苦茶に甘いものに飢えていた。 だものだから、ついうっかり、奴さんの云う事を飲み込もうとした。 涎でも・・・ 葉山嘉樹 「浚渫船」
出典:青空文庫