・・・今夜モ十二時ニハオ婆サンガ又『アグニ』ノ神ヲ乗リ移ラセマス。イツモダト私ハ知ラズ知ラズ、気ガ遠クナッテシマウノデスガ、今夜ハソウナラナイ内ニ、ワザト魔法ニカカッタ真似ヲシマス。ソウシテ私ヲオ父様ノ所ヘ返サナイト『アグニ』ノ神ガオ婆サンノ命ヲ・・・ 芥川竜之介 「アグニの神」
・・・草田ノ家ヘ、カエリナサイ。 スミマセン。トニカク、カエリナサイ。 カエレナイ。ナゼ? カエルシカク、ナイ。草田サンガ、マッテル。 ウソ。ホント。 カエレナイノデス。ワタシ、アヤマチシタ。バカダ。コ・・・ 太宰治 「水仙」
・・・ソノホカニモ水死人、サマザマノスガタデ考エテイルソウデス、白イ浴衣着タ叔父サンガ、フトコロニ石ヲ一杯イレテ、ヤハリ海ノ底、砂地ヘドッカトアグラカイテ威張ッテイタ。沈没シタ汽船ノ客室ノ、扉ヲアケタラ、五人ノ死人ガ、スット奥カラ出テ来タソウデス・・・ 太宰治 「創生記」
・・・「トパァスのつゆはツァランツァリルリン、 こぼれてきらめく サング、サンガリン、 ひかりの丘に すみながら なぁにがこんなにかなしかろ」 まっ碧な空では、はちすずめがツァリル、ツァリル、ツァリルリン、ツァ・・・ 宮沢賢治 「虹の絵具皿」
・・・故郷が恋しい、母サンやお祖母サンガ居ナイカラ僕ツマンナイヤ、とは、幼い藤村の手紙に決して率直に書かれなかったであろう。 藤村が文学の仕事に入った頃、日本の文学はロマンチシズムの潮流に動かされていた。当時の文学傾向がそうであったと云うばか・・・ 宮本百合子 「藤村の文学にうつる自然」
出典:青空文庫