・・・岡田氏はもし事実とすれば、「多分馬の前脚をとってつけたものと思いますが、スペイン速歩とか言う妙技を演じ得る逸足ならば、前脚で物を蹴るくらいの変り芸もするか知れず、それとても湯浅少佐あたりが乗るのでなければ、果して馬自身でやり了せるかどうか、・・・ 芥川竜之介 「馬の脚」
・・・ スペインに宗教裁判がもうけられていた当時を見よ。無辜の良民であって、単に教会の信条に服さないとの嫌疑のために焚殺されたものは、幾十万を算するではないか。フランス革命の恐怖時代を見よ。政治上の党派をことにするという故をもって斬罪となった・・・ 幸徳秋水 「死刑の前」
・・・ きのう日記をつけている時にのぞいた子供に、どこまで行くと聞いたらスペインへと言う、スペイン人かと聞くとそうだといった。 全部白服に着かえる。四月九日 ハース氏と国歌の事を話していたら、同氏が「君が代」を訳したのがあると言っ・・・ 寺田寅彦 「旅日記から(明治四十二年)」
・・・古いドイツやスペインあたりを思わせるような空気が、最も新しい西欧芸術の香と混合してそこに一種のグロテスクに近いものが生れている。同じ事はある派の日本画についても云われる。 ロシアのバレー作家のマッシンがある人の問に答えて、「見玉え。今の・・・ 寺田寅彦 「帝展を見ざるの記」
・・・ 近ごろスペインの舞姫テレジーナの舞踊を見た。これも手首の踊りであるように思われた。そうしてそのあまりに不自然に強調された手首のアクセントが自分には少し強すぎるような気もした。しかしこれがかえっていわゆる近代人の闘争趣味には合うのかもし・・・ 寺田寅彦 「「手首」の問題」
・・・ 少し唐突ではあるが地球上における蚯蚓の分布を調べた学者の研究の結果によると、ある種の蚯蚓は、東は日本から海を越えて大陸に、欧亜大陸を横断して西はスペインの果てまで広がり、さらに驚くべき事には大西洋を渡って北米合衆国の東部にまでも分布さ・・・ 寺田寅彦 「比較言語学における統計的研究法の可能性について」
・・・それが昔からの土人の都ではなくてアメリカ・スペイン人の都であったとは写真で見た町のプランから明瞭だそうである。しかしどうしてこの都市がすっかり荒れ果てた死骸になってしまったかはだれにもわからない。地震か、ペストか、それともソドム、ゴモラのよ・・・ 寺田寅彦 「ロプ・ノールその他」
四十年来の暑さだ、と、中央気象台では発表した。四十年に一度の暑さの中を政界の巨星連が右往左往した。 スペインや、イタリーでは、ナポレオンの方を向いて、政界が退進した。 赤石山の、てっぺんへ、寝台へ寝たまま持ち上げら・・・ 葉山嘉樹 「乳色の靄」
・・・徳永氏が傑れたものとしてあげている『中央公論』六月号のスペイン戦線からの作家たちのルポルタージュ、又はオストロフスキーの小説「鋼鉄はいかに鍛えられたか」などこそは、決して「物が人を動かす」理論からだけで出来得るものではないのである。 ル・・・ 宮本百合子 「明日の言葉」
・・・そのために、スペインの民主戦線に有名なパッショナリーアと呼ばれた婦人がいたことも知らなければ、大戦中フランスの大学を卒業した知識階級の婦人たちの団体が、どんなにフランスの自由と解放のためにナチス政権の下で勇敢な地下運動を国際的に展開したかと・・・ 宮本百合子 「明日の知性」
出典:青空文庫