・・・ 両手でピアノ弾くようにする タイプライターのことなり「本の宣伝に来たとは思いませんが、得手が分らないんでね」 三月十三日の雪 もう芽ぐんだ桜の枝やザクロの枝を押しつけて、柔い雪が厚くつもった。 床の間に・・・ 宮本百合子 「一九二七年春より」
・・・誰かが少し無遠慮に階段を下りると、室じゅうが震えるその二階の一つの机、一台のタイプライターを、ジェルテルスキーは全力をつくして手に入れたのであった。 薄曇りの午後、強い風が吹くごとに煙幕のような砂塵が往来に立った。窓硝子がガタガタ鳴った・・・ 宮本百合子 「街」
・・・慢性的にとり散らされた室の中ではタイプライターの音がせかせか響き、こんな日本語が聞えた。 ――どうしてぐずぐずしてるのさ繩がかからないの? ――切れちゃうのよ、この繩! おまけにこら! 毒じゃないかしらん、この粉―― ――支那の・・・ 宮本百合子 「モスクワの辻馬車」
出典:青空文庫