・・・彼等と一緒に兵タイに取られ、入営の小豆飯を食い、二年兵になるのを待ち、それから帰休の日を待った者が、今は、幾人骨になっているか知れない。 ある者は戦場から直ぐ、ある者は繃帯所から、ある者は担架で病院までやってきて、而も、病院の入口で見込・・・ 黒島伝治 「氷河」
――愛ハ惜シミナク奪ウ。 太宰イツマデモ病人ノ感覚ダケニ興ジテ、高邁ノ精神ワスレテハイナイカ、コンナ水族館ノめだかミタイナ、片仮名、読ミニククテカナワヌ、ナドト佐藤ジイサン、言葉ハ怒リ、内心・・・ 太宰治 「創生記」
・・・ツメタクナイ。ワタクシもう三つ食べました。チトモツメタクナイ。――。ツメタイノ持って来てください。ツメタイアイスクリーム持って来てください」というのである。 結局シャーベットか何かを持って来たのでそれでやっとどうやら満足したらしく、傍観・・・ 寺田寅彦 「三斜晶系」
・・・ ベルリンから 今ここのベルリイナア座で「タイフン」という芝居をやっています。作者はハンガリー人で、日本の留学生のことを仕組んだものだそうです。たいへん人気がいいそうであります。主人公の日本人の名がドクトル・タケ・・・ 寺田寅彦 「先生への通信」
・・・手結 「タイ」森。これではないらしい。あるいは「ツイ」切れるか。ビルマでは「テー」砂。出雲の手結とは必ずしも同じではないかもしれぬ。津呂 「ツル」は突き出る。二箇所の津呂いずれも国の突端に近い。以布利 バタク語で「イフル」は前同・・・ 寺田寅彦 「土佐の地名」
・・・「もしそうでないとすると、つまりその、世界のシンポハッタツ、カイゼンカイリョウがそのつまりテイタイするね。」「エン、エン、エイ、エイ。」クねずみはまたひくくせきばらいをしました。 相手のねずみは、「へい。」と言って考えています。・・・ 宮沢賢治 「クねずみ」
・・・ 階級的な男女の結合というと、すぐコロンタイの「赤い恋」が話題にのぼったのは、かれこれ七年くらい前のことであろうか。当時私はモスクワにいた。そして本家本元のソヴェト同盟では厳密に批判され、本屋に本も出ていないようなコロンタイズムが流布す・・・ 宮本百合子 「新しい一夫一婦」
・・・ 或るカイタイ会社が北海道のどこかで暗礁にのりあげて三年の間ゆらゆらしていた五千トンの船を二万円で買った。ドックに入れて、四十万かけて底をはりかえた。そして、二十万円に売った。 ドック料が一日五千円ばかりで、ドック側から云えば、なる・・・ 宮本百合子 「くちなし」
・・・○国鉄と麻布三連隊の兵士 赤坂一レンタイと市電労働者の共同懇談会が持たれた。○青年印刷工 六十九銭ぐらい。 一人の仲間は、「活字中の漢字という漢字を知って居り」その人を先にたてて皆のあつまる会をつくり、会の金を出すためにその・・・ 宮本百合子 「大衆闘争についてのノート」
出典:青空文庫