・・・しかし、この下僚は、少しも楽しみだと思っていないし、実際その放送の夜には、カストリという奇妙な酒を、へんな屋台で飲み、ちょうど街頭討論放送の時刻に、さかんにげえげえゲロを吐いている。楽しみも何もあったものでない。 たのしみにしているのは・・・ 太宰治 「家庭の幸福」
・・・カストリ焼酎などという何が何やら、わけのわからぬ奇怪な飲みものまで躍り出して来て、紳士淑女も、へんに口をひんまげながらも、これを鯨飲し給う有様である。「ひやは、からだに毒ですよ。」 など言って相擁して泣く芝居は、もはやいまの観客の失・・・ 太宰治 「酒の追憶」
・・・婦人党員はわきにしゃがんで日本女の膝の上へ持ってたハギトリ帖と鉛筆をのせた。 ――では、どうぞ名と職業を書いて下さい。 彼女は、日本女が耳で演説をききながら下手な字で「日本。作家、ユリ・チュウジォ」と書くのを熱心に見ていたが、手帖を・・・ 宮本百合子 「三月八日は女の日だ」
・・・芸術が特殊な人びとの自己満足の製作から脱して、本当に大衆の心にふれるように生長してゆけば、こんにちのうすぎたない娯楽性――カストリ的ジャーナリズム、スペクタクルからみんなが救われるでしょう。 日本でこの問題を解決する一つのモメントは、芸・・・ 宮本百合子 「質問へのお答え」
・・・警察のトリ物以外の、人間の生きている心の問題として、まじめにかんがえなければならないと思う。 戦争とは何であったろうか。それは、生かすことであったか、殺すことであったか。日本から赤紙一枚で前線に送られた兵士たちは、平和な日常生活の習慣か・・・ 宮本百合子 「戦争でこわされた人間性」
・・・漫才や軽音楽やカストリ小説の、時にとってはおもしろいかもしれないけれども、感覚の中をただ通りすぎてゆく間だけの気紛らしとは全く質のちがう文学の存在意義がある。 モーパッサンの「女の一生」は、こんにちも多くの人によまれている。特に日本・・・ 宮本百合子 「文学と生活」
出典:青空文庫